「なんだよ、起きてんじゃねえか」
「・・・・・・」

慣れた手つきで解除キーを押し、中に入るとソーマはすぐ目の前に立っていた。

「オウジサマの命でオヒメサマのお迎えにきたんだぜー?」
「・・・気持ち悪ィ」
「ひでーなオイコラ」

扉の近くで喋りながらも、ソーマは動かない。
ただ、じっとこちらの気配を窺っているのが、ひしひしと伝わってくる。
どうやら隠す気は無いらしい。

「・・・んだよ?そんなにネットリ見つめられると照れるじゃねえか」
「ケイト」
軽口を流され、名前を呼ばれる。
そういった時は大抵が冗談の通用しない、ただの不機嫌の固まりになる。

ーーー名前の呼び方なんてヨハネスと似てるんだもんなあ・・・
さすがは家族。
そんなことは口が裂けても言えはしないけれど。

「なに」
「・・・・・・」

再度、呼びかけてみても反応は無い。
俯いている為、ソーマより幾分か身長が低い自身からは表情など丸分かりである。
そこからは、苦しみや悲しみ、諦めといった負の感情が滲み出ていた。
本当は、今すぐにでもソーマの望むようにしたいが、ヨハネスがそれを良しとしないので、自分の一存では何も出来やしないのだ。
そう、つまりソーマの言いたい事は分かるし、いま自分は何を求められているのかも全て分かっている。

「・・・何も無いなら行くぞ〜」
「・・・・・・待て」

正に鶴の一声。
ヨハネスが一番に大切にしている子供、ソーマ。
ヨハネスを一番に大切にしている自分自身。

ーーー・・・ソーマには何があっても逆らってはいけない。
同時に、ヨハネスが望んでいる"自覚と理解"をソーマに施す。
二者択一であるのは見るも明らかであるが、彼が思うところは違う。

「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

だから、ソーマの言葉を待つことしかできない。
自分に触れてほしい、と。
自分に触れ自身の中のアラガミを静めてほしい、と。
何故なら、ケイトは他者に触れるだけでその偏食因子を調節できるから。
何故なら、ケイトに触れられるだけでソーマの中のアラガミは一時的に静まるから。


ーーー何故なら、エリックが死んだから。


ソーマは毎回そうだ。今回も悔やんでいるのだろう。
自分に関わらなければ、自分がそこにいたから。
けれど、過去にたらればなど何の意味も無い。
それは、ソーマが一番よく分かっているはずだ。

「・・・ま〜た考え込んでんのか」
「・・・・・・違う」

それは何に対しての否定だろうか。
真相は分からない。けれど、確かにこれだけは断言できる。

「ソーマのせいじゃねえよ」
「・・・・・・・・・・・・」

褐色の手をそっと握ると、ソーマと目が合った。
そのまま、今度は強くはっきりと言う。

「しょーもねえ奴らの噂なんか気にしてんなよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「あれは、ソーマのせいなんかじゃねえ」



ーーーだって、あの時アラガミを呼び寄せていたのは私だから。


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