神童が風邪を引いた。
「…38度5分」
さむいよ、とベッドに横になる神童は呟いて、鼻を啜った。頬は火照っているし、涙目だし、額には汗をかいている。「雪村、さむい…」
「うん、寝てろって。な、神童」
布団をかけ直して、額の汗を拭ってやると、神童は不安そうな顔で瞳を閉じた。典型的な風邪だ。
「おやすみ」
そう言って出ていこうとすれば、つい、と服の端が引っ張られる。
「神童…」
これが雷門中を引っ張ってきた神童拓人だって?ぐずぐずと鼻を鳴らして、いかないで、なんて言う神童は、まるで子供だ。可愛いなあ、と思う。甘やかしちゃいけないんだっけ、子供って。だけど、神童拓人は弱ったら、とことん弱くなる。心も、身体も。傍に誰かが居ないと、消えてしまいそうだ。近くにある椅子を引っ張ってきて、「ここにいるから、はやく寝ろよ」と言うと、相変わらず泣きそうだが、ようやく微笑んだ。
「頭、痛い?薬持ってこようか」
「ううん、いい」
しまった、暇潰し用に本でも持ってくればよかったな。ここに居れば嫌でも神童に構いたくなるし、それは神童の望むところでは無いだろう。要するに傍に居るだけで充分なのだから。
「ゆきむら」
「ん?」
伸ばされた手を握り返すと、どくんどくん、と大きく脈打つ熱い体温があった。「手、冷たい」気持ち良さそうに呟いた神童は、ゆっくりと目を閉じた。今度こそ、おやすみ。ちくたくと、時計の音だけが響くこの部屋で、しばらく、神童の様子を見たり、髪を払ってやったり、窓の外を見たりした。あ、いいな、と思う。決して離れないこの手も、窓から吹く花の香りがする風も、時計の規則的な秒針も、要するに、傍に居るだけで充分なのだ。











神童拓人強化月間/2012901/thx.リリパット


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