世界が、終わります。テレビの中の評論家が大真面目に言っていた。ニ〇十ニ年十ニ月二十一日、恐ろしくイチとニが羅列するその日、世界が、滅亡するらしく、世の中はふわりとした絶望に包まれていた。神童のもとを訪ねた雪村は、どうも、とだけ小声で挨拶した。別に、何があるというわけでもない。世界が滅亡するらしいから。最期の日は、大切な人と過ごすのが定番だからだ。

「ずっと、魚が飼いたかったんだ」
「飼えばよかったのに」
「猫がいるから、遠慮してた」
そう言って、神童は大きな水槽を持ち出した。夜も終盤、世界の終わりが着々と近づき、神童と雪村は淡い光を放つスタンドライトに照らされていた。部屋のすみにはどこから持ってきたのか、ビニール袋に入れられた金魚がいた。
「最後かあ…」
「どうやって終わるんだろう」
「うーん、隕石とか」
じゃばりじゃばりと水が入れられていく。波が立ち、砂利を飲み込んだ。それを見ながら、ぽつりぽつりととりとめのないことを話した。ああ、これが、終わりか。終わりなんて案外、どうってことないのだ。
「ぜーんぶ、海になっちゃうのも良いかもしれない」
そこに遂に、金魚が投入された。ぽちゃりぽちゃりと、赤が二匹。最初は暴れていたものの、すぐに落ち着き、広い水槽を悠々と泳ぎ始める。
「二匹でいいの?」
「俺と、雪村」
指さす先には、すいすいと金魚が泳いでいた。淡い光しかないこの部屋では、そのわずかな光を反射する水や、その中を二匹寄り添う金魚はまるで、神秘的だった。「きれい…」
「そうだ、ビー玉入れるの、忘れてた。一緒に入れようか」
「金魚に当たらないようにな」
神童が持ってきたビー玉は、たくさんの色があった。虹色だ。指でかるく摘まみ、そっと水際で離すと、一瞬溶けたかに見えたが、二匹の金魚はそれらを器用に避け、静かに砂利に着地した。二人で何回かそれを繰り返した。
「星の屑みたいだな」
「うん」
この水槽は、夜空だ。星の追撃を逃れ、俺達は広大な闇を駆けるのだ。ああ、終わってしまえ、世界よ。今なら、この大切なあたたかい時間を肌に纏っているこの瞬間なら、終わっていい。実のところ、世界が終わるのに、悲しいなんて思わなかった。汚い大人になってしまうくらいなら、壊れてしまい、化石になったって、いいのだから。
そうして暫く泳ぎまわる俺たちを見つめていると、時計の針が、十二を越えた。終わらなかったな、とどちらかが言った。終わっちゃえば、良かったと、どちらかが言った。









(水泡に帰す)






thx.ace


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