神童:星の王子さま
南沢:地球人






星空が綺麗な夜、神童はふるさとに帰ると言った。え、と間抜けな声が、口から零れた。「…とんだ邪魔者でしたね、俺」違う、そうじゃない。違うんだ。あの星に帰るって、そんな、俺の声、あんなとこで、聞こえるわけ、ないだろ。光の乱撃に目がちかちかして(神童の瞳が反射しているみたい…)、目眩が襲うのに必死に堪えた。薄っぺらい服には、神童の光が突き刺さり、いたい。夜空であんなにもやさしく微笑む光は、近くで視ると、こんなに痛いのだ。「まって、行くなよ」神童の熱くて仕方ない腕を掴んだ。まだ、まだいいだろ。まだあんなところに行かなくったって、ふたりで、一緒に…。



「俺の光は強すぎます。いずれ南沢さんの綺麗なアメジストも、潰れてしまいます」
「いいよ、俺の目なんて、最初からほんとのことなんて何にも視てやしないんだ」
そこで神童が、きっと困ったように笑っているはずだ。表情なんてもう、見えない、けど…。俺には、神童の声がちゃんと届くし、皮膚には、痛いくらいに神童を感じている。神童の長い指が、南沢の指に絡んだ。ぱちぱちと、小さな破裂音が聞こえる。
「…出会わなきゃ、よかった」
「そう思うの?」
「…いいえ、思わない」
神童の涙が指を伝う。こいつの涙はきっと、広がる夜空に溶ける。行くなよ、と力を込めた。風がカーテンを揺らした。
「大好きです。俺がここに堕ちたときから…貴方だけが」
「おれも、」



手のなかから、神童が消えた。指からはさらさらと、星の砂が流れた。「…神童?」おい、神童!いやだ、いやだ、俺お前が居なきゃ何にも、光が無くちゃどっちに行っていいかもわかんないよ。神童、俺はお前が…。
どれだけ大声で叫んでも、神童が帰ってくることは無かった。
そうだ、神童…
「お前はあそこに居るんだよな」
南沢は窓枠に足を掛けて、空を見上げた。いつか神童が言っていたことを思い出す。ひとは、みんな、星のこどもだから…。深い闇のなかに、一際輝く星を見つけた。

「しんどう」

ゆっくりゆっくり手を伸ばして、あいつが握り返すのを待っていた。何処かで、星屑が散る気配がした。










一樹さんへ/相互感謝


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テーマ「人外ファンタジー」
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