これの続き





ふわあ、と猫が欠伸をする昼下がり。中庭で、俺が作った弁当を広げた。何せ毎朝四時起床である。色とりどりなおかずに雪村が手を合わせて、いただきますと言った。俺もそのあとに続きながら、ふたりで弁当をつつこうと――って、おい。なんでふたり前の弁当を作り、一緒に食べるのが日常のようになっているんだ。おかしい?そう、おかしいだろう。
「雪村、単刀直入に言おう」
「何だよ。手なら拭いた」
「色々考えた。考えて考えて考えて、行き着いた結論なんだが」
「ああ、お前の卵焼き旨いよな、砂糖入れた?」
「その通り。有り難う。でもそのことでなく―――俺はお前と結婚云々、に承諾した覚えはないということだ」
ぴたり。雪村の箸が止まった。そしてこちらをちらりと見た。「まじで」「知らなかったのか!」こいつ、俺も同意の上だと思っていたらしい。驚いたように、しかし思い出したようにまた口を動かし始めた雪村は、何が不満なのかと聞いた。
「この通り俺はお前の卵焼きが好きだし、浮気もしないし、ほら、ふたりともサッカー好きだろ。お得じゃないか」
「いや、そうだけど、なあ…」
指輪が太陽に反射する。何だかんだでしていないと落ち着かなくなってしまったのだ。薬指に鎮座している指輪はなにも知らないと言う風にいつもと変わらなかった。しばらくして、芳しくない俺の反応に傷ついたのか、雪村がしゅんとしてしまう。
「大体、結婚というのは男女間でするもんなんだぞ」
「大丈夫。十八になったら白咲が雪村の籍に養子縁組で入れば良いよって、先輩が言ってたし」
なんてこと教えてんだあの大人は!しかし、これでわかった。雪村は、本気なのである。
「気持ちの問題もある」
これはこちらも本気にならなきゃいけない。核心を突くと、ぷいと拗ねてしまった雪村は、タコさんウインナーを箸で刺して、「こら行儀悪い」「ごめん」口に放り込んだ。おいしいよ、と言う。ただ油を引いて炒めただけなのだが。雪村はいつも、俺の料理には何にでも、律儀に誉めた。
「じゃあ白咲、俺のこと好きになって」
「あのなあ、そんな簡単に」
「俺のお弁当、いつも作ってくれよ。一緒に食べよう。おとなになったら一緒に住もう。サッカーもしよう。なあ、俺のこと好きになって」
あれ、なんだろう。こいつ可愛い。なあなあ、と一生懸命に話しかけてくる姿は、昼寝をする猫以上に可愛らしくて、いじらしくて、傲慢だ。雪村は、駄々を捏ねる子供みたいに体を揺らして、俺の名前を呼んだ。なあ、克也ってば!
「だめ?」
ずきゅん。撃ち抜かれた。これは、撃ち抜かれた。まるでエコーがかかったように雪村の言葉が頭の中で響く。なんだよこれ、おかしい。
「良い、けど…」
「ほんとう?」
決定!すっかりご機嫌になった雪村は、幸せだ、と呟いた。そして自身の指輪を撫でた。なんであんな返事をしたのか、わからない。でも今、雪村に自分のことを好きだと、無性に言ってほしかったし、卵焼きをもうひとつ食べて、笑ってほしかった。これって、好きということなんだろうか。








きりもさんへ/10000hit thank-you/title:リリパット


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