紙とペン、だなんて、とても未来人が使うような代物ではない気がするが、今、目の前に居るフェイは、まさにそれを使っている。窓から差し込む月明かりと、小さなスタンドの電灯で物書きをする未来人、なんだか不釣り合いで、可笑しい気がしてしまい、目を覚ました神童は、思わず目に留めたのだった。神童は、拙く動くペンのその様を見つめながら起き上がり、未来ではペンをまだ使用しているのかと訊ねた。
「ペンなんて持ったの久しぶりだよ。疲れちゃった」
「なに書いてたんだ?」
「お手紙、だよ」
くろやぎさんからお手紙ついた、と口ずさみながら、いつもの読めない微笑を浮かべたフェイは付け足した。
「神童くん、君宛に、ラブレターさ」
「ラブレター?」
フェイの手元の便箋を見ようとすると、さっと裏返されてしまって、見えなくなってしまう。それより、ラブレターって。
「天馬が言ってたんだ、神童先輩は、電話よりメールより、古典的に攻めろってね」
「はあ…」
「でもさ」
そこでフェイは手紙を電灯に透かして、口を曲げる。
「古典的に、って言ったって、僕わかんないし。読み返してみたら、とんでもなく悲しい内容なんだ」
これはラブレターとは言わないよね。そう呟いたフェイは、心なしか瞳が潤んでいるように見えた。月明かりがそう見せたのかも知れなかった。
「悲しい内容、って言ったって、ラブレターなんだろう。渡してくれないのか?」
「渡してあげない」
「どうして」
フェイは窓に寄りかかった。手紙を長方形に織る。「いいこと教えてあげる」「うん?」
なにか、言いたいことが有るんじゃないか。フェイという少年は、飄々とした笑顔の裏に、大きな闇を抱えているようだった。それはふと見せる寂しげな表情だったり、言葉を濁すことだったり、決意を秘めた表情に見え隠れする迷いだったりした。そんな彼だから、何か伝えたいのなら、受け止めてやりたい。
「夜風に当たりすぎるのはよくないぞ、フェイ」
「神童くん、見てて」
フェイの髪が、優しく揺れた。

あ、

紙飛行機になったラブレターは、一瞬で闇に呑まれた。フェイは神童に向き直り、悪戯めいた表情を浮かべた。
「もったいない」
「欲しかった?」
「そりゃ、もちろん」
「あは、それは嬉しいな」
「本当に勿体ない」
「神童くんが200年後まで生きてくれたら」
「200年後?」
「そしたら、神童おじいちゃんに届くかもよ」
面白そうに、小さく笑ったフェイは、
「実はさ、未来の郵便は、紙飛行機を飛ばしたら届く仕組みなんだよね」
じゃあ、おやすみと、寝床に向かう。おい、と無意識に呼び止めていた。
「それ、嘘だろう」
「ううん、本当」
ほら、何もかも違うでしょう?彼のラブレターは、今、未来の俺へと時空間を旅しているのかもしれない。寂しそうに視線を反らすフェイは、まるで異界のひとのようだった。










thx.リリパット


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