二期





天馬くんたちからいろいろな話を聞いた(さすがに、あのクマに聞く勇気はない)。
「なるほど、音楽部か」
「ねえ天馬くん、俺は?」
「狩屋?狩屋は確か、軽音部」
「うげ〜軽音?似合わねえ」
パラレルワールド?偽りの世界?もうひとりの自分?…そんなもの、信じていると言ったらウソになるが、変なバスやら喋るクマなんて見せられたら何も言えなくて、そこにむくむくと沸き上がってきたのは、知らないもうひとりの自分についての興味だった。
「ふむ、ということは」
みんなに引っ張りだこの天馬くんを見送ると、神童先輩は考える仕草をしてぽつりと呟いた。
「みんなとは、知り合いですらなかったんだなあ…」
「そうですね」
「ということは、」
唾を飲み下し、言葉を詰まらせる音が隣でする。
「…か、りや、お前と付き合ってないということか」
「…あー!はい、そうかも!」
なにそのいい世界!そうだよな付き合ってないよなあ。羨ましい。もうひとりの自分はこの先輩にきりきりと腹を痛ますこともないのである。うっかり嬉しそうに返事をしてしまったことに後悔しつつも、俺は妄想を膨らませる。神童先輩と付き合っていない?整腸剤ともおさらば?いえす、幸せ!もう軽音部でも何でもやってやる気分だ。あ、サッカーが無いのは、悲しいが…。
「おい、狩屋」
「へっ?」
「神童泣いてるじゃないか」
「え…って、神童先輩?!」
「神童どうした?よしよし、言ってみろ」
霧野先輩に寄り添われ、肩を撫でられている神童先輩(このふたりが付き合えばいいんじゃないの)は、涙をぽたぽた溢しながら顔を上げた。
「も…ひとつっ、の…うっ」
「無理するな、はい息吸ってー吐いてー」
「狩屋、どうしたの?」
「あー、うん、たぶん大したことない」
ことを祈ってる。
「おい狩屋、神童はパラレルワールドとやらでお前と付き合っていないことが悲しくてないてるんだとさ、喜べ」
喜べ、ない。この人相変わらず重いな!頬をひきつらせながら神童先輩を見ると、すっかり涙は止まったようですんすんと鼻を鳴らしている。
「えーと…」
何故かみんなが注目していた。あのクマがあの二人は付き合っているのかとしきりに天馬くんに尋ねている。変なこと言いませんように。
「えっと、俺はその、今、神童先輩と一緒で嬉しいって、いうか、その…」
「…………」
「し、正直、同じ校内ならいつか出会ってただろうし、ですね」
「良かったか?」
「へ?」
拗ねてる先輩は面倒だけど可愛い、と思う。頬に張り付いてる髪の毛を払ってやりたいと思った。
「狩屋は、俺と、付き合ってて良かったか」
「え、あ、はい」
「…そうか、じゃあいい」
にっこりと微笑まれ、不覚にもどきりとする。本当はちっとも良くないし、先輩と知り合いですらない軽音部な自分が羨まし過ぎるけど、この先輩は俺を溺愛していて、俺は明日もバッグに整腸剤を詰め込むんだろう。あーやっぱ羨ましいもうひとりの自分!










thx.リリパット


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