朝、制服を着るのが怖いのだ。あの固い生地に包まれた身体が、いつかどんどん痩せ細り、萎れてしまうんじゃないかって、怖い。

朝だ。眩しくて顔をしかめながら、カーテンを無理やり閉めた。しかしすぐにその行為を後悔した。それは自分ではもう開けられないと思った。自分で閉じてしまったのだから、自ら世界を閉じたのだから。薄暗い部屋のなかで、自分だけが世界に溶け込めないのだ。それは寂しい、でも学校には行きたくない。腹がきりきりといたい。
形よく冷めた目玉焼きを見て吐きそうになる。食卓の椅子が妙に重たかった。フォークを突き刺し、ちまちまと口に押し込む。
無理やり朝飯を詰め込んだのはいいけれど、どうにも学校に行くなんて選択は出そうになかった。学ランはハンガーに掛かったまま、無表情に風丸を見ていた。
「一朗太、お友達が迎えに来てるわよ」
「円堂?」
「違うわ、ほら、北海道だか何処かの…」
ああ、あいつか。やだなあ。何で来たんだろうか。また腹がきりきりと痛んだ。これは病気だ。ああ可哀想な俺!たかがチームメイトを恐れるようになったんだってさ、と自嘲すれば、鼻がつんとして、少しだけ海の香りがした。適当に理由を言って、休んでやろう。
ぱたりぱたりとスリッパを廊下に響かせて玄関を開けると、朝日を背に吹雪が立っていた。
「ひどい顔だね、風丸くん。おはよう」
「…わかるか?てことで、今から寝るから、さようなら」
「駄目だよ。僕がせっかく迎えに来たのに」
「はいはいそういうの、うるさい。やめろ」
そこまで言ってドアを閉めようとすると、がっちりと白い指がそれを遮った。
「きみのことは僕が守るよ。ねえ行こう」
「は…」
「守るって、言ってるんだよ。風丸一朗太くん」
「…お前、」
見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた!何を見られた?画ビョウ?汚い落書きをされたテキスト?臭い雑巾?びしゃびしゃに濡れたジャージ、あいつらの視線?ぞわりと背中に悪寒が走って、顔の筋肉が強張った。全身の力が抜けて、あっけなくドアが開いた。吹雪は変わらない顔で、しかし強い瞳で、風丸を見ていた。
「言ってほしくないなら、秘密にする。ねえ風丸くん、行こうよ」
「…みた、のか」
「見た、かもしれないね」
「それなのにお前は、俺に行けって、地獄に行けって…そう言うのか!?大した偽善だな!俺はお前みたいなやつ、が…」
「大嫌いだ、って?」
う、と嗚咽が洩れた。頬に涙が伝った。嘘だ、嘘だろ。ぐるぐると混乱する頭を抱えしゃがみこむ。吹雪は片膝を立ててしゃがみ、風丸の肩に手を置いた。
「いいかい、君はこんな狭い家にいちゃいけないよ。しらないだろうけど、昼間の家っていうのは、世界の弾きものさ。時間は永遠に過ぎないし、身体はどんどん痩せる」
「ふぶき、」
「さあ行こうか」
どこにだよ、と弱々しく呟くと、吹雪は風丸の手を取り微笑んだ。
「そんなの君が決めることだ。風丸くんには綺麗な脚が2本もある。羨ましいことだよ」
救世主。そんな単語が頭に浮かぶ。「お前が、俺を救うの?」どこの漫画だっつの。吹雪は女みたいに白く艶やかな頬を風丸の肩に寄せた。悪いけど、傍観していられるほど優しくないんだよ。「うん、救ってあげる。きみは、どうにも放っておけないんだ」
ほら、と背を叩かれて立ち上がると、目眩がする。外はこんなに眩しいのである!朝日は無情にも目を閉じさせようする。
「………」
「さて、何処に行く?」
「…制服は、着たくないんだ」
「あの紺はきみには似合わないものね」
似合わない?そうか、似合わない。吹雪の白い肌は、紺に良く映えた。
「風丸くんには澄んだ水色がよくお似合いだよ」
「じゃあ、」


空に行きたい。














thx.joy


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