白咲、手出して。練習終わりにそう唐突に言われて右手を出すと、雪村は眉間にシワを寄せた。
「馬鹿、左手だ」
「は?」
何なんだこいつは。仕方なくグローブを外して差し出せば、うお、ごつい、なんて言いながら左手を壊れ物みたいに触って、ぎこちなく銀色のものを薬指にはめた。
「なんだこれは」
指輪、というか、指輪。中心にあるガラスがきらきらと目に優しくない。
「指輪だ」
相変わらずの無愛想で言い放った雪村は、くるりと背を向けて歩き出す。慌ててそれを追いかける。勿論指輪をはめたまま。
「おい雪村!」
「何だよ」
「だから、意味がわからないって…」
「あれだ、あれ。結婚指輪」
プレー中は外すんだぞ、とご丁寧な心配つき。いやいやいや、会話をしないか。
「結婚するのか、俺達」
「うんうん。結婚だ、けっこん」
「コーチにやるんじゃないのか」
「ばか、先輩の指はもっと繊細で細くて綺麗できれいなんだよ。そんなデカイのはまるわけないだろう」
「いや、だけど」
「指輪はめたんだから結婚成立だ。よろしくな白咲」
あまりにも唐突で、そうなのか、と一度納得しかけてしまう。おっと危ない。おもちゃみたいに安そうな指輪はしっかりとはまっている。
「ていうかお前…俺のこと好きなのか」
そこで振り向いた雪村は、一瞬考える素振りを見せて、横を向いてしまった。頬は真っ赤に染まっている。
「…そういうこと、言わせんなよ」
まじかよこいつ本気だ。ううんと唸って空を見上げたら、明日から弁当一緒に食おうな、なんて言われてはいはいなんて返事をして、変な方向に話が進んでる。どうしたらいいんだ。反射する指輪をどうにも見ていられなくて、ポケットに手を突っ込んで嘆息した。












thx.リリパット


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