目を薄く開けた。ふわふわとした意識のなかで徐々に覚醒していく。なんだか周りの景色が、白い。そうだシーツのせいだ。自分は昼寝をしていたのだ。そして自分の胸のなかに在るのは現在帰省中の恋人だ。シャンプーの香りが鼻腔をくすぐった。紫色の髪をした恋人の頭を撫でてやり、力の入らない腕で抱き締める。
日曜の午後2時、柔らかなシーツ、差し込む陽光、傍らに恋人、規則的な呼吸、頬に纏うシャンプーの香り、ああなんて幸せなんだろう。ぽかぽかと心地よい陽射しが白に反射した。
みなみさわさん。まだ呂律の回らない舌で呼ぶと、まるで小さな子供のように南沢は身動ぎした。動かないで、まだこうしていましょう。頬擦りをして微睡む。
明日には、帰っちゃうんですね。そう思うと涙が溢れた。ぽたり、ぽたり、頬を伝う。悲しいのかな、俺。ただ思っただけで泣いてしまうんだから、悲しいんだろうな。 例えばこの空間が永遠だったらいい。この腕のなかに存在していればいい。関係がずっと続くといい。涙がシーツに薄い水玉を作った。
「…しん、どう」
いつの間に起きたのか、不思議そうに首をかしげ、見上げてくる南沢は、手を伸ばして神童の頬に触れた。
「…どうしたの」
いいえ、何にも。そう言おうと思うけれど言葉が何も出ない。この人の右手は、ひやりと冷たい。



「神童お…」
何で泣いてるんだよ、掠れた声で呟いた。親指が涙に濡れる。なあ何で泣いてるの。ここにいるのが霧野だったら何も言わなくても落ち着いて解ってやれるんだろうけれど、俺は不安なの。神童が泣いていると胸がざわざわして落ち着かない。泣かないで。
「幸せ、なんです」
嗚呼神童の匂い。上品で、ちょっぴりコーヒーの香り。
「…幸せなの」
「はい」
「それだけで泣いてんのか」
「…はい」
はにかみながら、鼻をすする音が頭上から聞こえる。
「忙しい奴」
例えばこんな話。幸せだから泣くのって、終わりが見えてるからなんだよ。終わるのが名残惜しいんだ。交際はそこそこ順調、休日には一緒に昼寝。いいじゃんそれで。だめ?これからもずっとなんだよな。少なくとも、今は。
「ちょっと早いですけど、おやつにしましょうか」
そう言って離れようとする両手が寂しい。待って、もうすこし、この微睡みに居よう。ふわふわして、雲の上みたいだろ。











thx.joy


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