ぺちんと、力の篭らないビンタを喰らった神童は、大きな目を見開いて、本心からなのか条件反射からなのか、大粒の涙を溢した。
「ばか!」
張り裂けるくらい煩い声で叫ぶと、神童は唇を震わせて必死になにか云おうとした。
「なんで」
なんでここにいるのか、と白いシーツを握りしめて訊いてくる神童の声は震えていた。
「もう、…ばかだ、ばか」
重い荷物を白い床に落として、小さな声で呟くと、こちらまで泣きたくなってしまって、ゆるゆると視界が歪んだ。どうかしたのという看護師らしい声がドアの外から聞こえ(しまった、此処は病院だった)、神童は何でもないと声を張って返事をした。一瞬、静寂が訪れて、目をごしごしと擦ると神童はどこを見たらいいか解らないようで、ゆっくりと視線を動かした。
「…心配、かけさせやがって」
「ゆきむら」
「俺が、どれだけ、」
心配したと思う?また涙が頬を伝った。これじゃ、いつもと逆じゃないか。ありったけの小遣いを使ってここまで来た。雷門の松風とかいうやつが電話口で、キャプテンがキャプテンが、としか言わないから。
「…しんだかと思った」
「すまない」
「…しんだ?」「いや、いきてる」「ほんと、に」「頬っぺた、痛いぞ」「ごめ」「ごめん」「よかった」「いいから、座れ。話をしよう」
生きてるじゃないか、ちゃあんと生きている。椅子に腰かけて、先程叩いた頬を恐る恐る触ると、林檎みたいに赤くなってしまっている。少しだけ熱かった。
「…力、いれてないつもりだったけど、ごめん。痛いな」
「違う、恥ずかしいんだ、嬉しいんだ」
「嬉しいの?Mっていうやつか」
「馬鹿だな、違うよ。解っているくせに」
「わかんない。言ってくれなくちゃ、わかんねえよ」
「じゃあなんで雪村はここまで来たんだ」
「…飛行機」
「そうじゃなくて、どういう理由で来たんだ」
「神童がすきだから!」
「はっきり言うな」
うわあ、俺たち、今すごく恥ずかしい。もういいよ。怪我人には優しくしないとな。大好きだよ、だから来ちゃったんだよ。学校休んでしまったけど。白い包帯は、太陽に反射していて、撫でると温かくて、
「治るよな」
「治るさ」
痛くない痛くない。おまじないをかけてやると、いとしそうに潤んだ瞳で、神童の唇はその言葉を反芻した。









thx.慟哭カタルシス


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