朝の集会があって、サッカー部はその片付けを頼まれた。朝の体育館は、さっきまで人がひしめきあって暖かったのに、人が居なくなった途端、ぶるりと体が震えた。鉄パイプの椅子は冷たくて、錆がざらざらと気持ちが悪かった。かしゃんと鉄の擦れる音が、実は嫌いだったりする。


剣城は、ぴょんぴょんと跳ねるピンクを見つけた。ツインが艶やかに靡くもんだから、ちょっと触りたいと思ったのは秘密だ。
「…何してるんですか」
椅子を運ぶでもなく、ただ不安定につま先立ちで歩く先輩に声をかけると、霧野はつるぎ、と小さな口から白い息を溢した。
「忘れた。シューズ」
足元を見ると、なるほど、これはつらいだろう。白いソックスの中で必死に、指を縮めていた。つま先立ちをしていた霧野は、振り向きざまに、わざとよろけたように剣城の肩に手を置いて、一息ついた。さむい、と。
「貸します」
「何を」
「シューズ」
やだよお前のなんて。拗ねたように頬を膨らませた霧野は、疲れたのかつま先立ちをやめた。
「やっぱさむい。なんで忘れちゃったんだろ」
「おぶりましょうか」
「誰を」
「先輩」
「きもい」
そう言って笑ったあと、霧野は肩にあった手を首に回した。髪がちくちくと頬に刺さった。足が浮くと体重と椅子の重みで体が傾いた。
「うわ、ちゃんと支えろってば」
くすくすと耳に残るハスキーは、力を込めてまた、抱きついた。うげ、先輩何してんの。ほもだもん、俺。そんな会話を狩屋と交わしながら、白いソックスは必死に冷たい床から離れようとしていた。子供っぽいその動きを見て、少し笑みが漏れてしまう。
「剣城、ぬくい」
癖になりそう、と耳元で囁かれる。誰のせいで熱いと思っているのかこの先輩、薄い胸板やら耳元の声やら、軽くない体重にさえどぎまぎしているのは剣城だ。その腰に手を回したい。そろりそろりと手を回せば、がしゃんと音を立てて椅子は倒れた。










thx.慟哭カタルシス


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