パラレル
花屋風丸と隣人鬼道





「…おはようございます」

ぶすっとした顔で呟く隣人は、数日前に越してきたばかりである。えーと、名前は何だっけか。Vネック、ジーパン姿で立っている隣人は、眠そうに目を擦っていた。うわあ、瞳が赤だ。綺麗。昼や夜は愛想がいいので(まあ、サングラス?に隠れた目はいつも見えないが)たぶん低血圧かなにかなんであろう、たぶん。嫌われる覚えはないのだし。おはようございますと返事をして、花に水をやる。じょうろからこぼれ落ちる水が花に降り注ぐ。


隣人は、特に何をするでもなくしかめっ面で花を見つめていた。いつもは高く結ばれているドレッドが降ろされていて新鮮であった。「今日は、お仕事は?」
「休みなんです」
ぼそぼそと喋るのであまり聞こえない。俺はジョウロを置き、花をよいしょと抱えた。
「…待って」
隣人が手を伸ばし、垂れていた俺の髪をすくう。
「…あ、有り難う」
「いや、こちらも急に済まない」
ああ、まだ寝惚けているのか。言葉とは裏腹な眠そうな顔でこちらを見られて、自然に微笑んでしまうのがわかった。花を脇に置いて、隣人に向き直る。
「睡眠不足なら、お薦めの花があるぞ。よく眠れる香りなんだ」
俺は花を何本か抜き取って束にして、隣人に差し出した。隣人は小首を傾げて、其れを受け取る。
「プレゼント、だから、えーと」
「鬼道有斗だ」
「うん、鬼道さんにやる」
「…有り難う」
まるで花束を壊れ物のように扱う隣人、いや鬼道からはとても、シャンプーと花の香りが混じったいい匂いがした。
「よかったら明日も寄ってくれるか、その花、デリケートだから、世話とか大変だと思う」
「ああ、わかった」
いい香りだ、と呟いて花束に顔を埋めた鬼道は思い出したように、
「お前からも、」
「風丸ね」
「すまない、風丸さんからも同じ香りがする」
そりゃ、花屋だからなあ。ていうか、それ云うの、かなり恥ずかしいと思うのだが。
あ、そうか、まだ寝惚けているんだっけ。なんだ、この隣人、とても可愛い。朝日に照らされる、花束を持った鬼道は静かにまた明日、と言って微笑んだ。









企画「モノグラム」提出
title:リョウキンカ(あなたに会える喜び)


2012.2.14/風鬼の日


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