中3設定





着込んだって着込んだって、この寒さは解消されることはないように思えた。赤くなった、霜焼けの指先に息を吹きかけても、どうせ何にもならない。白い息が宙に浮かんだ。筋肉は固まってしまったように、(夏だとあんなに柔らかく、伸びやかに走れるのに!)一定の歩幅を保っていた。
「風丸」
隣に居る鬼道が小さく呟いた。寒さで潤んだ瞳には、ああ、夏だったら、太陽の日差しが差し込んで、もっときらきら輝くはずだが、それでも澄んだ赤には、水色の髪が映る。
「なあに」
しょぼしょぼと閉じようとしてしまう目をどうにかこじ開けて、口を開くとまた、白い息が漏れた。
「寒いな」
「うん、夏が好きだ、俺」
夏にはもう、お前の隣には居ないだろうけれど。でも俺、夏がいい。四肢を振り回して、足を延びるだけ伸ばして、いち、に、さん!そうやって走り回ったあとに、気づくんだろうね、お前が居ないこと。この冬が終わってしまったら、きっとさようならだ。


俺たちは所謂受験生というやつで、今ではあのサッカー馬鹿の円堂もちょこちょこ勉強をしている。東は今頃必死で追い込み中だろう。様々な高校からお呼びがかかったが、結局俺は奨学金付きの有名私立、鬼道は海外に留学することになった。頑張れとも、行くなとも言えなくて、無言で隣を歩く。たぶん、別れる。コンクリートの固い地面で、足首が痛い。鬼道が向こうに行ったら、この関係も途切れるだろう。ぷつん、って。
「鬼道、あのな」
「うん」
「俺が行く高校、ブレザーなんだぜ」
高校の話題を初めて持ち出すと、ぴくりと隣の肩が揺れた。
「…そうか」
「いいだろ?俺、ブレザー着てみたかったんだ」
「ああ、きっと似合う。風丸なら、絶対」
「ありがとう。でもネクタイだからな、ひとりじゃまだ結べないよ」
お前がいないとだめだよ。
「練習、すれば、簡単さ」
ごめん。
噛み締めるように話す鬼道は、俺はな、と続けた。
「あっちの学校は私服だ」
「へえ、いいな」
「そうか?ネクタイは俺もしてみたい」
「いつもしてるじゃないか、パーティーやら何やらで」
「そうだが…」
背中に張ったカイロが、妙に熱が強い。でもきっとこれを取ったら寒いと、どうでもいいことを考えて、足を止めた。
「鬼道」
「うん?」
「路地裏、こっちに行こう」
人通りのほとんどない道を示すと、鬼道は疑問を顔に浮かべた。
「俺さあ」
俺は左手を差し出す。
「鬼道のこと大好きだ」
ゆっくり、ゆっくりとまぶたを開いて、うん、だか、ああ、だか音を溢した鬼道に、微笑みを返した。
「遠回りしようか」
ゆっくりと、慈愛の瞳で左手を見た鬼道は、右手の指先を、少しだけ触れさせた。感覚なんてありやしない。でも、なんて温かいんだろう。左手は追いかけるような仕草で、右手を掴んだ。
「冷たい」
くすりと笑った鬼道があまりにも切なそうだから、その身体だって全部、俺のものにしてしまいたいけれど、それはできないね。だって俺は有名私立で、お前は外国だもんな。こんなに大好きなのに、やっぱり、お別れの予感は確信に近づいていく。だって俺、今だけで、こんなに苦しい。
「遠回り」
もう一度、ぎゅっと握る。
「遠回り、して帰ろう」
くすぐったい心臓が跳ねる。足を一歩踏み出そうとして、やっぱりやめた。帰りたくないね。遠回りしたって、いつか家に着いてしまうから。








2012.2.14/風鬼の日!


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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