愛だか恋だか知らないが、結婚してしまった。しかも、中学の監督と?冗談じゃない。
「ねえ、ちょっと」
「何ですか」
「怒ってるの?」
何に?結婚したことに!
「…別に、怒ってはない、です」
「じゃあ何でご機嫌斜めなの」
先輩はソファーに座ってクッションをいじり始めた。完全にいじけモードである。
「年長者に失礼ですけど、もっと、結婚ってプロセスを踏んでするものだと思うんです」
「プロセス、ねえ」
まず、出会い。告白、お付き合い。プロポーズ。なんやかんやで結婚。みたいな。
「ほら、俺たちは」
出会い。喧嘩(いや、あれは俺が一方的に怒って…ないない、あれは先輩も悪い!きっと!)そして結婚。好きだとも、結婚しようとも言われていないのだ。
「いいじゃない、シンプルイズベスト!」
にこり、というテロップが出るんじゃないかと思う笑顔を俺に向け、話は終わったとでも言うように鼻歌をしはじめる先輩の隣に座り、リラックスタイムを妨害した。してやった。
「おいで雪村、ぎゅーってしようか」
「しません。今俺たちは大切なことを話していますから」
「……雪村は、ほんと、生真面目さんだね」
「…なんでもはっきりしないと、気がすまないんです」
ううん、と先輩が顎に綺麗な手をやって、考えるしぐさをする。不覚にもキレイだなと思ってしまうのを必死で振り切った。
「きみが好きだから、っていう理由じゃダメかな」
「………」
「僕、雪村が大好きなんだよ。だから無理にでも結婚したかった」
先輩がじっと、グレーの瞳で見つめてくる。そこには俺しか映っていない。先輩の瞳の中の俺は、なんとも間抜けな顔をしている。
「雪村は、どうなのかな」
「…俺は、だいぶ前から、先輩のこと」
好きです、のひとことが言えない。喉元まできているはずなのに、全然外に出たがらない。暖房のきいた部屋で、俺は耳まで赤く染まるのを感じた。
「すき」
ようやくその単語を紡いだ。心臓がばくばくと脈を打った。
「…先輩」
「うん」
「泣いてるんですか」
「だって、嬉しいんだもの」
泣きながら必死で笑おうとする先輩は、手でその滴を拭った。そして、ごめんね、と小さな声で謝罪した。いとしい。すきのひとことで泣いてしまう、不器用で、十も歳上のこの人が、たまらなく可愛らしい。
「せんぱい」
俺は手を伸ばして、先輩の首に抱きついた。ぎゅーって、してあげた。ぎゅうぎゅうぎゅう!
「あは、雪村、苦しいよ」
この人と結婚してよかった。





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テーマ「人外ファンタジー」
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