うでのなか
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たまに俺は、no nameはわざとやっているのではないかと疑念を抱く。俺じゃなくて真ちゃん真ちゃん…あいつの彼氏が本当は真ちゃんなんじゃないかと不安になる。
「ねえ真ちゃん!今日のおは朝見逃しちゃったんだけど、わたし何位だった?」
「心配するな。今日のふたご座は1位なのだよ。」
「ラッキーアイテムは?」
「眼鏡だそうだ。」
「じゃあ真ちゃん、眼鏡今日一日借りるねー!」
「あっおい待てno name!」
「へへー!これでわたしは人事を尽くしたのだよ!」
なんで真ちゃんと笑いあってんの。お前の彼氏は俺なのに。
「真ちゃんの眼鏡、度すごい強いねえ…くらくらしちゃう。」
「なら返すのだよ。」
「やーだ!」
なにじゃれあってんの。no nameとそういうことしていいのは俺だけなのに。
いらいらいらいら
抑えられなくなって、席を立った。
俺がいなくなったことにも気付いていないのか、no nameと真ちゃんはずっと楽しそうに喋っていて、それが余計に腹が立った。嫉妬なんて醜いと思っていたのに。
屋上の扉の前。
俺はそこに立っていた。
ドアノブを回すと、鍵が掛かっていた。
「なんだよクソ」
暴言を吐いて、その場にしゃがみ込む。
自分が醜い。
好きなものは全部腕の中に入れていたいという、考えが。誰にも触れさせたくないという、感情が。冷たい扉に額を押し付けると、後ろから声が聞こえた。
「和成」
大好きな、あの声が。
「…なに」
「やーっぱ怒ってる」
「…誰のせいだと思ってんの」
「わたし?」
「決まってるっしょ…」
顔を見たくない。酷いことをたくさん言ってしまいそうになるから。酷いことをしてしまいそうになるから。
「わたしの一番は、いつだって和成だよ?」
俺の心を見透かしたようなこいつを、閉じ込めてしまいたくなるのに。
「和成の腕の中は、あったかいね」
ここはいつだって、お前のためにあるのに。ずっとこうしていたいと言った俺を、no nameは何も言わずにただ笑っていた。
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