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最初に零れたのは、言葉ではなく涙だった。
「あーもー泣いてんじゃねーよ!俺が悪いみてえじゃねえか!」
荒々しく頭を撫でる手つきは、出会ったばかりのあの頃と、何一つ変わってはいなかった。
ああ、宮地のにおいがする。
久しぶりに鼻を掠めるその香りは、少し汗のにおいも混じっている。走ってわたしを探してくれたのか、と少し嬉しく感じ、宮地に思いきり抱きついた。
「やっと会えた」
宮地はため息を一つ吐いてからわたしを強く抱き締め返し、小さく呟いた。
腕の間から覗いた彼の顔は少し赤い。両手で包むと、熱がじんわりと手のひらに伝う。
「顔、熱い」
まだ涙が残る顔でそう笑いかけると、彼は視線を逸らして頬を掻いた。
「お前がメール返さねえせいで、この人混みの中走り回ったからな」
「ご、ごめんって…」
「で?どういうつもりだ?俺にこんな走らせて?探させて?ん?」
「いやはや、大変申し訳ないことを……」
「俺は謝罪じゃなくて理由を聞いてんだけど?」
理由を言ったらきっと、そんなことかよ、と彼は呆れてしまうんだろう。想像してしまい、小さく笑った。
「何笑ってんだ」
頬を抓られ、白状せざるを得なくなっても頬は緩んだままだった。
「寂しくなっちゃったの、で、わたし以外のマネージャーからタオルとかドリンクとか受け取ってるって想像しちゃって、それが嫌で…なんていうか…その…」
「嫉妬か?」
「…まあそんなとこ?」
「…はああああ…」
宮地はため息にしては大きすぎる息を吐き、頭を抱えてその場に座り込んだ。
「そんな盛大にため息つかないでよ…」
「心配して損した…」
「…心配してくれたの…?」
「…まあ、ちょっと?」
「へえ?わたしがどうなると思ってたの?」
「……」
「ん?」
宮地から心配した、なんて言葉を聞くのは初めてで、歪みそうになった口を片手で隠した。質問しても帰ってこない答えを催促するかのように、宮地と同じように座り込み、目線を合わせた。
「…俺に会えないから…飽きちゃって…他の男?と…」
「う、浮気したかもって?」
「…なんでそんな嬉しそうなんだよ」
「…べっつにー?」
そんなこと、あるわけないのになあ
ばかだなあ
座り込んだまま広げた両腕は、宮地を包み込んだ。
「…宮地は、頭いいくせにばかだよね」
「うるせー」
温かい体温と少し早い鼓動を聞きながら、宮地から離れられそうもないなあ、なんて頭の片隅で思った。
終わってしまった青春と引換に、何かが始まった気がした。
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