▼ 小説『おれにコレをどうしろと』の導入ボツ案(生存IF)
波飛沫を喰らうように進む龍の姿が見えるやいなや、エースは火力を上げてストライカーの速度を変えた。
威厳に満ちたあの大型船は、革命軍の主船ヴィント・グランマ号に間違いない。
少しばかり高くなってきた波の合間を縫いながら近づけば、甲板から身を乗り出さんばかりにこちらへ手を振る小さな影も見えてきた。
「……ース、エース!」
大げさな動きと共にその影──サボは何度もエースの名前を呼ぶ。その子どもじみた歓待が素直に嬉しくて、エースもまたストライカーが揺れるほどに大きく腕を振って応えた。
船尾に追いつくなり、頭上から顔を出したサボが再びエースの名を呼ぶ。
「エース! 早かったな! 今から少し海が荒れそうだから心配してたんだ」
「おう、久しぶりだな、サボ! 確かにちょっとばかり不穏な風だ……おれのストライカーそっちに上げちまって良いか?」
「ああ。そうしてくれ」
サボは二つ返事と共にロープを投げてくる。どうやら既に準備していたらしい。船を繋いで引っぱる曳航でなく、完全に引き上げることが出来るのはストライカーの利点だ。動力が『特別』なだけに余分な重さがない。適当に各所にロープを括りつけてから、エースは甲板へと飛び上がった。
「よっ、サボ! 早速で悪ィがこっち頼む」
二本のロープの片方を放り投げれば、サボは難なくそれを空中でキャッチする。
「ああ。しっかし、このストライカーって不思議なバランスだよな。重心が分かんねェや」
「おれも分かってねェ。適当に結んじまったけど落とすなよ?」
「落とさねェようにはするけどよ。落ちた時にゃお前の責任だぞ、エース?」
二人で揃って笑い声を上げながらロープを引く。合図無しでも同じタイミングでぴったりと息が合うことは今更珍しくもないが、こういった地味な船仕事をしている時だと戦闘中とはまた違った感覚をエースは感じていた。同じ船に乗っていたらこんな風に過ごしていたのだろうか、などと。
ストライカーを上げ終えると、サボは再度身を乗り出すようにして後方の海へと視線を向ける。強くなってきた風に煽られて、金色の髪が揺れた。
「……もうだいぶ波が高いな。うちに追いつくまでにストライカーがひっくり返っちまったらどうしようかと思ってた」
振り向いたサボは悪戯気な含み笑いを浮かべている。エースもまた、わざとらしく両肩を竦めてみせた。
「だからわざわざ船尾の一番後ろで見張ってくれてたのか? おれが溺れたら助けてくれるつもりで?」
「本当に転覆するほど下手くそだとは思っちゃいねェさ、お前の腕が鈍ってなきゃな」
軽口ながらも安堵の滲んだ物言いからして、もしもの場合は飛び込んででも助けに来てくれるつもりだったのだろう。エースは余裕の表情のまま、内心密かに胸を撫で下ろす。間違ってもひっくり返ってしまわなくて良かった。そんな格好悪いところなど、片想いの相手に見せられない。
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※最初はエースが片想いを自覚している設定でした
※ストライカーを一緒に上げるの可愛いなーって思って