▼ この心臓は今にも駆け出しそうで
大荷物を抱えて行き交う人々で港は大混雑。どうしたって革命軍は戦地にばかり縁があるから、ここまで活気のある島は久しぶりだ。
「──あぶねェな! 気ィつけな、にいちゃん!」
「おっと、すまねェ!」
背負った鉄パイプが水夫の担いだ荷物にぶつかりそうになったかと思うと、今度は別の運び屋の荷物が顔に当たりそうになって慌てて避ける。どうやら丁度大きな商船が荷下ろししたばかりらしく、船着場を目指すおれの歩みは流れに逆らうもののようだ。
潮の香りが一段と濃くなり、おれは帽子を落としてしまわないように注意しながら更に流れを遡る。早く、早く。逸る気持ちがもどかしさを掻き立てる。だってもう、気配がしているんだ。
漸く船着場へ辿り着くと、見計らったかのように一隻の小船が弧を描いて滑り込んでくる。船と呼ぶには心許ない薄さと細さのそれが、しかしどれほど力強い動力で荒波を越えてくるのかをおれは知っている。
「エース!」
手を振って駆け出す。もうすぐ上陸してくるのに、その「すぐ」が待てやしなかった。ざわめきは後方、今この想いを遮るものは何もない。早く、早く。未だストライカーは船着場の少し向こう。しかし浮かれた足は地を蹴って、おれの身体は宙へ舞う。長いコートの裾が一拍遅れて海風に翻った。
「おわッッ!?」
エースは驚きの声を上げたけれど、しっかりとおれの腰を抱いて受け止めた。
「サボ、お前いきなり──」
「会いたかった、エース」
大袈裟に揺れるストライカーの上で、愛しい恋人の背に腕を回す。早く、早く。気が焦って、心が跳ね回る。お前を想うと、もう一秒だって我慢できないんだ。
【完】