※ちょっとだけ性的表現含みます
あの白い建物に、彼は何年間いたんだろう。
なにもないあの部屋に。
「は、あっ、」
「っ、名前」
頭がくらくらする。秀星の身体もわたしの身体も熱くて、どろどろに溶け合ってしまいそうだ。
秀星の欲を孕んだ瞳に見つめられて、ずくん、と身体の中の熱が疼く。思わず秀星、と余裕のない声を出してしまった。彼の瞳が揺れた。
「はっ、名前、もう…」
「っ、しゅうせ、あっ、ああっ!」
奥を突かれて、身体ががくがくと震えた。力が入らなくなって下になっている秀星に撓垂れ掛かる。彼の筋肉のついた胸が、小さく上下している。
「は、名前、ゴムとんないと」
「ぁ…もうちょっと、このまま…」
熱くて、気持ちよくて、秀星のにおいがして。
目を瞑って頭を彼の胸にこすり付けるようにして甘えてみると、背中に腕をまわされ抱きしめられる。
「ね、秀星」
「なーに」
「わたしの命で秀星が幸せになれるなら、わたしは迷わず心臓を差し出せるよ」
「何ソレ。何だよ、いきなり」
頭上で秀星が苦笑したのがわかった。お互い顔は見ない。秀星が続けた。
「てか、名前がいなくなったらオレ幸せじゃねーっつうの」
「…ふふ」
「…なんだよ」
嬉しくてつい笑ってしまうと、拗ねたような秀星の声に咎められてしまう。
見上げると、目が合った。
「わかった、わたしが秀星のこと幸せにする」
「それ、お前が言うセリフじゃねーよ」
秀星が楽しそうに笑った。幸せに色づいた表情。その顔が、すごく子供っぽい、と思った。
***
何が、起きているんだろう。
秀星が、逃亡なんてするはずがない。
気付けば、狡噛に殴りかかっていた。すんでのところで征陸さんに身体を抑えられ、狡噛に拳を掴まれる。
それでもわたしの衝動は止まらなくて、狡噛に叫んだ。
「わたしたちの班じゃなくたって、近くの班に応援を呼ぶべきだったよ!!」
「…どこの班も暴動の鎮圧で中々動ける状態じゃなかっただろ。それに手遅れになるかもしれなかった」
「っ、でも3人で突入するなんて無謀だよ!!なんで、ひっ、う、」
言葉の途中で嗚咽が漏れる。
狡噛にあたるのは完全にお門違いだとわかっている。けれど狡噛をどうしても殴りたかった。しかたなかったとはいえ秀星を一人で行かせて、無茶をすることぐらい狡噛にならわかるはずなのに。秀星が逃亡なんてするはずがない。絶対に、何かあったんだ。
狡噛と朱ちゃんがうつむいている。
秀星は2人に懐いていた。わたしだって狡噛とは長い付き合いになるし、朱ちゃんだって優しいし好きだ。でもわたしには、彼らを責めるしかなかった。
涙で2人の顔が見えなくなる。止まりそうもないそれを両手で必死にぬぐっていると、ふいに抱きしめられた。
「…弥生」
顔は見えないけれど、人の体温はひどくわたしを切なくさせた。情けなく声をあげて泣く。
近くにいた征陸さんも、わたしの頭にぽん、と手を置いた。朱ちゃんの謝る声と、狡噛がわたしの名前を呼ぶ声が聞こえる。ギノさんは少し離れたところで険しい顔をして立っていた。
そうだ、一係はみんな、悲しいんだ。
みんな秀星のことを仲間だと、大切だと思っているから。
わたしだけじゃない、から。
ねえ、なんでいなくなったの。
秀星はこれから、幸せになる予定だったんだよ。わたしと2人で、幸せになる予定だったんだよ。
それなのに、あなたはきっともう、この世界にはいないんでしょう。
最後に交わったあの夜を思い出す。
あの日の笑顔が、ずっと頭から離れなかった。
やっと居場所が見つかったんでしょ?なら早く帰ってきてよ。
なんで、いなくなったの。
神様なんかいるはずないと思ってた。けれどわたしは、ただ神様に祈った。
どうか秀星が、どこかで幸せでありますように。
title:リラン
0822
新編集版#8で縢くんの新規カット追加されてるしやっぱ死ぬしエンドカードやばいしもうつらくてつらくて。