ヘマをした。

気絶させたと思っていた攘夷浪士がまだ意識があって、しかも銃をもっていたなんて、とんでもない油断をしてしまったのだ。

相手はなんとか始末したものの、左足の付け根辺りを2発撃たれてしまった。
自力では動けず、しばらく壁にもたれかかっていたわたしを見つけてくれたのは、予想通りの人物であった。



「名前!!」

「あ、土方さん。来てくれるって信じてました!」

「はぁ…ったく、お前は…」

「すいません…いてて」



土方さんは壁のそばに膝をつくと、ゆっくりわたしを抱き抱えた。俗に言う、お姫様だっこと言うやつだ。


「あっ、歩けますって!」

「うるせえ」

「う〜…」


まさか、土方さんにお姫様だっこされるなんて。一昨日、沖田さんとスイパラなんて行かなければよかったと激しく後悔した。わたし、絶対に重い。最近忙しすぎて食生活乱れまくりだし、今人生最高に重い。



「大体、お前なんで総悟と一緒に先陣切ってんだ。俺の部下なんだから、大人しく俺についてくるのがフツーだろうが」

「だって…土方さん、敵みーんな倒しちゃうんですもん。わたしだって、沖田さんぐらい戦えます」

「とか言ってやられてんじゃねえか。それで死んだら元も子もねえ」



ふざけているのではなく、本当に怒っているらしい土方さんの口調に思わず尻込みしてしまう。


視線を下げると、太ももあたりの隊服のズボンがすっかり血を吸ってぐしゃぐしゃになっていた。痛みがじわじわと、わたしを攻めたてる。幸い致命傷にはならなかったが、土方さんが言うように、もし胸や首を撃ち抜かれていたらと思うとぞっとした。






黙って傷口をじっと見ていると、わたしの膝裏にある土方さんの両手が動いて、傷に響かないよう優しく抱え直された。


「…重い、ですか?」

「いや、」


それきり土方さんは喋らなくなってしまった。

普段から散々迷惑をかけているが、いつにもなくひどく怒ったような土方さんは、わたしを戸惑わせ口を噤ませるには充分だった。












男所帯の真選組とはいえ、なにかと気を遣ってもらっていると思う。
わたしはそれが土方さんのおかげだと知っていた。この人は、何気ない顔をしながらもいろいろ考えてくれているのだ。

そんな土方さんをわたしは純粋に尊敬しているし、上司としても異性としても憧れていた。この人のためなら、命を投げ出してもいいとも思っている。


けれども、わたしがしていることといえば迷惑をかけることばかりだった。生活のこともだが、現場でも突っ走ってしまうわたしのフォローをしてくれるのは、いつも土方さんだった。お前は寝ろ、なんて言ってわたしの分の書類仕事もしてくれる。

そんな土方さんに、わたしは何を返せているというのか。











ゆらゆらと、土方さんが一歩踏み出す度にわたしの身体が揺れる。ちらりと顔を盗み見ると、相変わらず土方さんは無言で、まっすぐ前を見つめていた。

わたしは、ため息をついてうつむく。自分が、ひどくみじめに思えた。





「心配したんだよ、」

「へ、」


ふいに頭上から降ってきた声に、再び顔を上げる。
土方さんが、決まりの悪そうな表情でそっぽを向いていた。その耳がすこし赤い。

「…」

沈んでいた心が、何かあたたかいものに包まれるように感じた。





「土方さん、」

「あ?」

「ごめんなさい、わたし…」

「…無茶すんなよ、このクソガキが」

「む、ガキじゃないです。わたしもう19ですもん」

「俺からしてみりゃお前も総悟もガキだ」

「…」

「…なんだよ」

「…えいっ」

「だっ!?」


わたしを見下ろしながらあざ笑う土方さんの首に、不意をついて両腕をまわした。そのまま首筋に顔をうずめると、頭上から焦ったような声が聞こえる。


「おい…!名前、離れろって」

「土方さん、いいにおいしますね…」

「っ、落っことすぞてめえ」

「うわ、けが人にひどい!!」

「うっせえ。もう寝てろ」

「もがっ!」


物騒なことを言われ、思わず顔を上げた。その瞬間、わたしの背中を支えていた土方さんの手が後頭部をつかんだ。顔を無理やり土方さんの首筋に押し付けられ、再びさっきの体勢になる。



「ひじかたさーん…」

「んだよ、気持ちわりぃな」

「ひどい」


すぐに頭を押さえる力はなくなったが、わたしは土方さんにひっついたままだった。
土方さんのにおいと、土方さんの体温。それらがわたしをひどく安心させた。加えて、血を流したのもあって徐々にまぶたが重くなってくる。




「んむ…」

「そのまま寝ろ」

「帰ったら…ちゃーんと、おしごとしますね…」

「うっせえよ、ケガ人は寝てんのが仕事だ」

「だって…ひじかたさ、一人でおしごとするの悲しいでしょー…?」

「余計なお世話だ」



聞き慣れた低い声がまた眠気を誘い、だんだんと意識が薄れていく。土方さんのため息がかすかに聞こえた。



「もう早く寝ろ、俺がもたねえ」

「ん、おやすみ、なさ…」



意識が完全になくなる瞬間、ふと何かあたたかいものがくちびるに触れた気がした。








「おつかれ、名前」











141007
title:リラン



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