佐々山、狡噛、名前の3人は、勤務を終え佐々山の部屋に集まっていた。

時計の針はちょうど真上を指すところである。ソファの前のローテーブルには、既に空になったビールの缶やら焼酎の瓶が転がっていた。




「おら名前、飲め飲め!」

「も、ムリ…からだあつい…」

「あっついから冷てえビール飲むんだろーが。ほら」

「いや、それめちゃくちゃ…」



佐々山に大量のアルコールを飲まされた名前は、今にも目を閉じてしまいそうだった。
ちなみに狡噛はそれほど酔っていないが、佐々山もほぼ泥酔状態である。






「佐々山、こいつ未成年じゃないのか…?」

「細かいことは気にすんなぁ、おら狡噛も飲め」

「うわっ、俺ももういい!明日当直なんだよ…!」

「うるせぇ、いいから飲め!」

「光留くん酔いすぎ…うるさい…」

「あぁ?俺はこんくらいじゃ酔わねぇっつの」

「酔っぱらいに限って酔ってねえって言うんだよ、なぁ名前」

「コウ、後は任せた…わたし寝る…」



とうとう名前は眠気に耐えきれなくなり、ソファに横になった。今にも夢の世界に旅立とうとしている名前の顔を狡噛がのぞき込む。



「おい佐々山、名前もう落ちるぞ」

「しゃーねえなぁ、ベッドまで運んでやるか」

「ん…みつるくん…こー…」

「あ?」

「3人で、ねよ…」

「…だとよ、光留くん」

「うるせえ、殴るぞ」



そう言いつつも佐々山は名前を横抱きにすると、狡噛を先導するように寝室へ向かった。狡噛も笑いながらそれに続く。

名前は、ゆっくりと目を閉じた。









***






「って感じの夢、見た」




少し前の約束のとおり、名前と征陸、それから狡噛と縢の4人で飲み明かして、次の朝だった。勤務時間の迫っていた征陸と狡噛は、朝早くに自室に戻っている。休みである名前と縢は一度眠りについたものの、既に目を覚ましていた。





ソファに寝そべったままつぶやいた名前に向かって、向かいのソファに座っている縢が口を開く。


「その夢のせいで、」

「え?」


縢の声に名前が視線を向ける。バチリと、目が合った。




「その夢のせいで、泣いてんの?」

「は、え、」


慌てて名前が自らの頬に手を伸ばす。そこを伝っていた大粒の涙が、名前の指先を濡らした。


「ひっ、ひさしぶりに…見た、からかなぁ、」



溢れ続けるそれを必死にぬぐいながら、名前は苦笑を浮かべる。その痛々しい笑顔を見ていられなかったのか、縢は立ち上がって名前に近付くと、両眼を隠すようにして彼女の顔にそっと手を置いた。



「秀星…?」

「目、腫れる」

「ごめ、っ…」

「名前、オレさ、」

「…?」

「オレ、佐々山ってやつにはなれないけど…代わりに、していいから」

「…」

「名前…?」


ずっと、縢の心でもやもやとさまよっていたこと。縢の前にハウンドfourとしてここにいた人物を名前が慕っていたのは、もちろん知っていた。その人物に、おそらく自分が勝てないことも。
それを初めて言葉にしたのに、なぜか名前の返事はなかった。縢は不思議に思って彼女の顔から手をどける。

名前は、まっすぐに縢を見ていた。






「…わたしの中で、っ、光留くんは光留だし…秀星は秀星だよ」





秀星も、わたしのたいせつな、大切な人。
名前が嗚咽混じりに言った。



「っ、」



縢は一瞬、息を飲む。

名前は目に涙をいっぱいにためながら、それでも縢から目をそらさなかった。
さっきの弱った表情とは違い、いつもの、名前の強い目だった。


「しゅうせ…んっ!」


次の瞬間、縢は少しかがんで名前に口づけていた。




「ん、んぅ、」

「っ、ふ、名前…」

「しゅう、せ…しゅう、せい…」

「だいじょーぶ、オレはいるからさ、ここに」




キスを終えて、縢は名前と目線を合わせるようにしてソファのそばに膝をついた。
また名前の目から溢れてきた涙を、指先でぬぐう。

名前は耐えきれなくなったのか、まつげを震わせながら縢のシャツを掴む。息を漏らして微かに笑った縢は、そっと彼女の頭に手を置き声をかけた。



「もうちょい寝る?まだ6時だし」

「ん…もう少し、寝たい」

「オレのベッド使っていいよ。オレはソファで寝るからさ」



縢がふあ、とひとつ大きな欠伸をしながら立ち上がる。
名前はそれをじっと見ていたが、ふいに口を開いた。



「…秀星」

「ん?」

「一緒に、寝ようよ」



名前は困ったような、どこか悲しそうな顔で笑った。



「はぁ、」



縢は小さく息を吐き、ことさらおちゃらけた調子で口を開く。



「わかって言ってんだよなぁ?それ、」

「仕方ないから、朝っぱらから盛る変態秀星くんに付き合ってあげる」

「とか言って、期待してんじゃないの?名前ちゃんも」



名前は縢の問いかけには答えず、代わりに再び歩み寄ってきた縢に向かって両手を伸ばした。



「秀星、お姫さまだっこして」

「しゃーねえなぁ…」




2人は、いつものように子供っぽく笑った。




「多分一回じゃ終わんねーわ、オレ」

「いいよ、わたしも久しぶりだし」

「言ったな?」




141007





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