前略、うちは貧乏である。現在父子家庭、母は5年ほど前に蒸発してそれ以来連絡はない。戸籍もそのままらしい。父親によると母さんはいつかかえって来るんだとか。昔はそれで泣く泣く納得していたものの15歳にもなると帰ってこない事なんか想像がつく。もともと出来ちゃった結婚なわけだし仕方ないかなぁ、なんて。死に物狂いで働いている父さんだが家計は火の車。中卒なんて雇ってもらえるところが限られているし、賃金もとても低い。そんな私が私立校で有名な氷帝学園に通っているなんてご近所では相当な噂だ。どうやって学費を払っているんだとか、実は父親が財閥の坊ちゃんで駆け落ちしてここへ越してきたんだとか根も葉もない噂をよく出来るものだ。事実、私は学費免除で通っている。中卒の両親から出来た子供は親を見て育つもので、将来そんな大人にならないようにと小学校のうちから積み上げてきた努力の甲斐あって見事お受験に合格し、中学校からは学費免除で通えているのだ。しかし校内での風当たりは厳しい。通う生徒はほとんどお坊ちゃん、お嬢さん。そんな彼らの話、遊びについていけるはずがなかった。気がつけば自身の学力のせいでめんどくさい宿題まで押し付けられるようになり、友達も一人もいなくなっていた。

その日の授業も終わり、帰ろうと荷物をまとめているとくすくす笑いながらお嬢さんたちが近づいてきてノートを渡す。1、2、3。うわ、三冊も。もう言われなくても何をやればいいかわかるのだ。今日は確か数学と英語。同じ問題を自分の含め4回も解く時点で暗記できるからテスト勉強などしなくていいから助かる。最初はいやだったが慣れると何も感じなくなってしまった。男子はやめろよ、なんて笑いながら言うが止める気なんてない。ただ一人寝ている者もいたけれど。この空気が嫌でかばん持って教室から飛び出した。家に帰ってしまえばこんな気持ち捨てられる。唯一の私の自由な時間だ。電車に乗って単語帳を開いて、着いたら降りて。無心で家まで歩く。そういえば今日、鍵ちゃんと持って出たっけ。歩きながらポケットをあさったりかばんの中を見たりするがそれらしきものは見当たらない。どうしよう、父さん夜遅くなるまで帰ってこないのに。とりあえず家まで急いだ。もしかしたら、家の脇の隠し場所に鍵が入っているかもしれない。門扉を空け、扉を見て驚愕。

『売家…?』

そんな馬鹿な。だって売りに出すなんて聞いてないぞ。慌てて隠し場所を覗くが鍵は入っていなかった。窓から覗けば家の中の少ない家具もすべてなくなっている。私の部屋の物も全部なくなっているのだろうか。ポストの中には白い封筒に名前へ、と書かれた封筒が入っている。開くとボールペンで走り書きで乱雑に書いてあるいつもの父親の字で簡潔に書かれた文章が。

『すまん、お母さんに街で偶然会ったら話が弾んでまた一緒に住むことになった。お前も連れて行きたいのだが、お母さんの方に娘がいてその子がお前と住むことに反対だそうだ。仕方ないからお前の部屋にあった学校関係以外のものを売って金にしたので大事に使ってほしい。お前なら一人でも大丈夫だろう。父さんの中学時代の知り合いが名前を引き取ってくれるそうなので暫くはそこにいてください。父さんより。』

…。いやいやいやいや、それはねぇよ。大体娘の私物売るか?それじゃ少ないお小遣いとバイトで買ったものが還元されたからプラマイ0じゃないか。それだったら売らずにダンボールにつめてくださいほんとに。そうか、母さんとって娘の私を捨てるのね。あっちの言いなりって訳だ、自分の幸せに子供を犠牲にするわけだ。これじゃ両親ともクソ親。全然大丈夫じゃない、自分の子供の面倒ぐらいちゃんと見ろ。そんな事を思ったってぶつけられる相手がいないんじゃ仕方ない。とりあえずその知り合いさんの家へ行かなくては。迷惑、だよなぁ。たかが知り合いってだけでその子供を引き取るなんて。私だったら絶対しない。そうは言ってもこの真冬に公園で野宿なんて出来るはずもないのでおとなしく指定された家へ向かうのであった。


 着いた先はごく普通の一軒家、というかクリーニング屋さん。本当にここであってるのか分からずとりあえずドアを開けて入ってみる。

『すみません、』
「あらいらっしゃい。なんでもクリーニングいたしますよ。」

迎えてくれたのは人のよさそうないかにも女って感じのふわふわした雰囲気をした女性。やさしそうな人、こんな人が母親だったらよかったのに。本題はここが私の居候先かどうかだ、もし違ったら私は変な子扱いされるかもしれないけれど勇気を出して言ってみる。

『あの、ここで私を引き取るって言ってくれている方がいると聞いて来たのですが、合ってますか?違ったらすいません。』
「もしかして名字くんの所の娘さんってあなた?」
『はい、本当に父がすいません!』
「謝らなくていいのよ、悪いのは名字くんだもの…。それにしてもどうかしてるわ、娘を預かってくれなんて。理由が復縁っておかしな話よ。大変だったでしょう、荷物、少なかったけど運んどいたわ。さ、上がって!」

父さんの同級生の女の人は店の奥の扉へ案内してくれた。

『すみません、お邪魔します。』


これが私の居候生活の始まりであった。



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