別れよう、そう彼に告げたのは昨日の話。私はまだ彼のことが大好きで愛しくてたまらない。でも今のままでは私も彼も駄目になってしまう。離れることで彼のためになるのなら私はこの気持ちを全部捨てる。

夕暮れの教室で今まで作ってきた思い出を整理する。写真もネックレスも指輪も全部焼却炉に投げ込むために。最後の思い出にと光るネックレスを首につけた。

『首輪みたい。』

手でチャームを持ち上げて目線に合わせる。それから窓の外のテニスコートを見ると心が動いた。行きたい気持ちを押し殺してネックレスを首から外した。


「何してるの。」

突然ドアが開いてコートにいるはずの精市が詰め寄ってきた。

『それ以上近付かないで。』
「何で。」
『私は精市…、幸村くんとはもう別れたんだから。』
「別れたといっても近付いてはいけないとは言われてないし第一あんな一方的な言葉で納得するとでも思ったのかい?」

強引に顎を掴まれ、同時に掴んでいたネックレスを奪い取られた。

「まとめて捨てるつもりだったんだ。」
『持ってたってしょうがないでしょ。』
「そうだね、捨てたら捨てた分だけまた贈ればいいだけの話だから。」
『そんなのいらない!』

精市を突き飛ばして逃げるためにまとめて合ったノートを投げ付ける。無駄なことだと思っていてもやめられなかった。じゃないと私、また精市に捕まえられて今度こそ離れられなくなる。ひたすら泣きじゃくる私にどんどん近付いて来る精市が怖くて。机に度々ぶつかって自分の手が切れて血が吹き出しても何も感じない。

最後の思い出の一枚の写真が入ったガラス製のフォトフレームを投げようと試みてもこれだけは出来なかった。下手をしたら彼の選手生命を傷つけるかもしれない。


「これで終わり?」

何も返せる気力もなくてただ俯いて次の言葉をまった。

「手が血まみれじゃないか。傷物になっちゃったな…。」

「もう俺しかこんなお前を愛せないね。」
『違う、ちゃんと見てくれる人はいる。』
「そう。」

私の掴んだフォトフレームを奪い床に叩き付けて割った。そして破片を拾い精市は自分の腕に突き立てた。

『やめて!』
「駄目だよもうお前と同じ傷物になったから。俺もね、貰って貰えるのは名前しかいないんだ。意味、分かるよね?」

もう彼には何をしても無駄だとわかってしまった。割れ物を扱うように抱き締める精市の腕を私は振りほどけずまたシャツを掴むのだ。振出に戻るこの恋愛を私はいつまで続けるのだろう。本当の愛など知れはしないのに。



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