あの日から瑠璃の口から芥川の話をよく聞くようになった。俺たちは性格は全然違うが考えは一緒らしい。

「気に食わない。」
『何が?』
「なんでもないよ。」

いけない、今は優しい俺なんだった。昼夜と性格は変わるものの昼間の俺が常に優しく気の配れる出来た人間というわけではない。人並みに嫉妬はするしわがままだって言う。

「今から出掛けない?」
『どこに?』
「…夕飯の買い物とか。」
『分かった、ちょっと待ってて。髪とか整えてくる。』
「じゃあ俺はバッグとかとってくるから。」

瑠璃が買い物に行く時つかう青色のエコバッグを引き出しから出した。こういう日常的な部分はきっと俺しか知らないだろう。ちょっとした優越感。支度をした彼女は靴の色に迷っていたから紺と短く呟く。俺の髪とおそろい。服は茶色っぽいけど。


『何で買い物なんて誘ったの?普段は見向きもしないのに。』
「たまたま。」
『…豹って猫科だっけ。』
「それは気紛れっていいたいの?」
『うん。』

そんな話をしながら10分ほど歩くとデパートに着いた。ここは俺もよく来たことがある。家族、部活の仲間とも。ふと目を離したら瑠璃はお菓子コーナーにいた。まず食品行かないの。

『あ、これ懐かしい。』
「懐かしい?」
『よく慈郎がくれたの、久しぶりに食べようかな。』

また芥川の話。俺に見せたことのない優しい笑顔。

「チョコレートは太るから飴にしたら?結構このグレープキャンディとかお勧めだけど。」
『私太らない体質だもん。』
「新しいものに挑戦したらいいじゃないか。それとも俺のお勧めは信用出来ない?」
『そういうのじゃないけどさ。』

何が違うんだ。俺と出会って過ごした期間は短いから距離はまだあるけれど縮めていきたいと俺は思い初めているのに何で上手くいかないのだろう。そんなとき最も見たくなかった顔を俺は捉えてしまう。

「瑠璃そのチョコ好きだもんねー?」
『慈郎?ここ神奈川だよ!?正確にいえば県境だけど。』
「丸井くんに会いに神奈川来てたんだC。」
『あぁ、丸井くんね。』
「瑠璃、丸井を知ってるの?」
『慈郎から聞いて色々、ボレーの天才。だっけ?』

意外だ、丸井を知ってたなんて。まさかと思うけど会ったりしてないよな。また厄介なのが増えるのは後免だ。それにしても芥川、近付きすぎだろう。必要以上にくっついて菓子を選んだりしている。まるで俺は邪魔だとでも言いたいように。

『決めた。』
「チョコにする?」
『今日は精市のが早かったから飴ちゃんにする。』
「え。」
『何で精市がそんな顔するの?そっちが勧めたんじゃん。』
「俺を優先するとは思わなかったから…。」
『あー、うん。私の意思だから。今日は飴ちゃんでもいいかなって思っただけ!ほら、夕飯の材料も行こう。』
「じゃあ俺丸井くん待たせてるから行くC。じゃあね、瑠璃、幸村。」
『また学校でね。』
「うん!」

嵐のように来て去っていく芥川。最後に俺にも挨拶をしたのは余裕綽々だからか。悔しい、あんな草食動物に負けてるなんて神の子の二つ名が廃る。今後もあいつには十分注意しないといけなくなった。

羊の観察日記は始まったばかり



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