今日で私は23歳になる。大学を卒業しそこそこの大手株式会社に就職し、恋人も出来た。彼は頼れる年上の仕事の出来てやさしい人。相手にとって不足はない。とてもいい人で一緒に入れる時間をとても大切にしてくれているから、休日は常に彼の家かデートをしている。周りから結婚結婚と囃し立てられることもあるが実感はない。彼と家族になる事を想像できないのだ。確かにいい人なんだけれど一生を共にするパートナーとしては何か違う気がする。そんな彼とも近々婚約をするつもりなのだけれど私はもうちょっと待って、といえないのは惚れた弱みなのかもしれない。

『Happy birthday to me』

 そんな私は今日が誕生日。一人で小さなホールケーキを買って蝋燭を立てる。こんな日に限って彼や私の友人は仕事だったり彼とお約束があったりしたのだ。仕方ない、なにせ今日は12月24日、恋人たちのクリスマスイブなのだから。だからこそ無理強いは出来なかった。私はつくづく損をしている。小さいころは誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントは常に一緒だったし。蝋燭に火をつけた。するとタイミングよく着信。ディスプレイには仁王雅治の4文字が。あわててスマートフォンを耳に当てる。

「橙梨ちゃん今から俺の家来れる?」
『雅治の家?多分…1時間ぐらいでいけると思うけど。』
「ほんま?誕生会しちゃるからはよ来て。柳も芥川もおるぜよ。」
『分かったすぐ行く。』

懐かしい友人の名前を聞いて私はすぐさま蝋燭の火を吹き消し箱にしまい、再び冷蔵庫の中にケーキを入れた。明日食べよう。そしてコートとマフラーを手に取る。今年はホワイトクリスマスになる予報で前日である今日の夜から冷え込むのだ。うう、しかもこんな夜に外出だなんて。でもお一人様クリスマス会より大勢の方が楽しいだろうし誘惑に負けてしまった。

電車に乗り込めばそれからはただ揺られるだけ、21時という事もあって電車の中は座れる程度に空いていた。座ってからスマートフォンをいじる。ニュースページを出して今日のニュースを見る。私は新聞を取っていないので常に携帯から情報を得ているのだ。安いし情報は得やすいしで一石二鳥。…ただガセネタも多いけれど。スポーツニュースページも開く。私の友人にはテニスをやってた人が多いせいか、いつの間にかスポーツニュースを開く事が日課になってしまった。おお、日本人が全日本テニス大会優勝。日本人で上手い人といえばあの手塚さんって人かな。丁度駅についてしまって乗り換えのため慌てたから見出しだけで中身を見る事は出来なかった。

 雅治の家は乗り換えた駅から数駅でそこから徒歩3分ほど。チャイムを押せば赤い顔をした雅治が顔をのぞかせた。

「橙梨ちゃんいらっしゃい、上がって上がって。」
『雅治酒臭いよ、飲んだの?』
「橙梨ちゃん遅いからもうシャンパン1本開けちゃったナリ。」

腕を絡めながら玄関へと、言い方は悪いがひきづられた。主役登場前にシャンパンを開けるとは何事。中では酔いつぶれている柳くんと顔を赤くしながら飲んでいる丸井くんとおっさんとわかめ頭の少年と慈朗。意外だ、柳くんお酒強そうなのに。反対に丸井くんは弱そうに見えてがぶがぶ飲んでいる。ああ、普段ウイスキーボンボンなどのアルコール入りのお菓子を食べているから酒に強いのか。慈朗はちょっとだけ大人っぽくなったような気がする。

「誕生日おめでとう橙梨、さ、飲んで飲んで。」

慈朗からグラスを差し出され注いでもらう。うん、おいしい。一口飲んで気づいたが、私飲んでしまって家まで帰れるかな。あれよあれよと酔いが回っておつまみをもらいつつケーキを食べているといつの間にか23時。慈朗や雅治からは耳と尻尾が生えてきた。わかめ頭の少年も犬みたいな尻尾、だけれど耳は猫みたいにとがっている。

「俺、狼なんスよ!ガオー。」

さすがの獣も酒には勝てず、性格は変わらぬままみんな酔っていた。

「なぁ橙梨ちゃん、俺らプレゼント用意したんよ。ほしい?」
『えー、プレゼントくれるの?ほしいほしい!』
「大きい箱と小さい箱、選ばせちゃる。」

そういって雅治がぱちんと指を鳴らすと手のひらには小さい箱が。まっさはるのイリュージョンなんて言って笑った。もうひとつの大きな箱は丸井くんが台車を引きながらもってきた。なんて大きい箱。一体何が入っているのだろう。いつもならちょっと遠慮して小さな箱というところだがお酒と好奇心に負けてしまっているため、大きな箱ー!と言ってしまった。さあどうぞといわれ大きい箱のリボンを解く。きれいな箱だが遠慮なくびりびり破ると何かが見えてきた。後ちょっとだ、そう思い思い切り紙を引きちぎろうとしたそのとき。中のものが箱を突き破ってきた。


「Happy birthday 橙梨」

黒に近い紺の髪を揺らし抱きついてきたそれは、大きい大人びた獣。

『精市、くん。』
「驚いた?なかなかみんな出させてもらえないから窒息するかと思ったよ。」
『なんで?』
「奈緒がよくなって会いに行こうと思ったら引越しして家にいなかったし連絡先も変わってたし、もしかしたら俺の事忘れたいのかなって思ったら連絡先も仁王たちに聞けなかった。でも俺は未練たらたらだからこれで最後にしようと思って、サプライズ。」
『…未練あったから忘れようと思って引っ越して彼氏まで作ったのにいまさらじゃん。』
「うん、むかついたから君の彼氏の会社に仕事たくさん持っていってクリスマス一人になるように仕向けさせたんだ、柳に。俺さ、当然のように橙梨が俺を待っててくれると思ってた。だから離れて、そしたら手の届かない場所にいてさ、すごく焦った。」

ぎゅっと抱きしめられる。あのときの感覚と一緒だ。あったかくて安心する。お花のにおいはあんまりしないけれど。一度街ですれ違ったとき手をつないだ君の顔を見たらね、そう言われ顔を見ると悲しそうに眉を下げていた。胸がきゅっとつかまれたような気持ちになる。

「とても幸せそうだったからあきらめたほうが橙梨の幸せだって、そう思いざるをえなかったよ。」
『うん…。』
「けじめをつけるためのテニスの大会で優勝しちゃって、そのまま舞い上がって誕生会を計画したんだ。」
『あ、じゃあ全日本のテニス大会って、』
「そう、俺。酒に酔ってるところ利用するのよくないけどもうそんな余裕ないから言うね。

俺と結婚してください。」

キスして触れた唇からはお酒の味がした。返事を言いたいのに唇をふさがれていて答えさせてもらえない。窒息するほど深いキス。またあのときよりうまくなったんじゃないかな。どこの女としたのやら。やさしさの微塵も感じられないような荒いキスに私は肩を押し返した。

『私、付き合ってる人がいる。明日のクリスマスに婚約する予定。』
「…そっか、ごめん。」
『でも、その人と家族になるっていう想像まったく出来ないの。何でだと思う?』
「?」
『結婚を想像して出てくる私の隣には精市くんがいつも立っているから。』

結婚してしばらく二人で暮らして、25歳ぐらいで第一子が生まれて寿退社、そして専業主婦になる。夫となるのはもちろん精市くんでテニスをしながらたまには育児をして育メンなんてメディアに取り上げられて。そんな想像の生活がずっと頭の中から消えない。涙ながらに話すとありがとうと言ってやさしい啄ばむようなキスをされた。

「クリスマスプレゼントもらっちゃったなぁ。俺があげるはずだったのに。」
『あ、今すぐ結婚じゃないからね?彼に婚約直前にごめんなさいって伝えないと…、気が重い。』
「俺も一緒に行ってあげようか。それで殴られてあげるよ。」
『彼、そんな人じゃないよ。』
「俺のデータではあの男がDV男である確立87.98%だ。というかそろそろ二人ともやめてくれ、こちらの気がもたん。」

赤面している方々におめでとうといってくれる方々。2人の世界に入って申し訳ない。これから家でそれなりのことをするのだろうと柳くんがドヤ顔で言ったら精市くんは否定せずニコニコと笑っていた。

「これからはペットと飼い主じゃなくて夫と妻、かぁ。あ、俺亭主関白だから覚悟しといてね?」


波乱の結婚生活はすぐそこまで迫っているのであった_end



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