ここはどこなんだろう。暗くて何もない空間の中に明かりの玉が一つだけふわふわ揺れている。寂しい、怖い、そんな負の感情がじわじわ侵食して来て押し潰されているような感覚が襲う。 「聞こえるかい?」 『不二、さん?』 「あぁ、そうだよ。今から僕の出す質問に素直に答えるんだ。」 声だけがこの空間に響く。辺りを見ても不二さんは見えないし気配もない。質問はこっちがしたい、ここはどこだって。 「一つ目の質問、君は彼をどう思う?」 彼、あぁそういうこと。こんな質問簡単じゃないか。言葉はいくらでも出て来るし、表せないぐらいの量なる。 『一緒にいる時間が心地よくてもっと近付きたい。』 「そう…。じゃあ彼が奪われてどう思った?」 『胸が締め付けられて、苦しくなった。』 ふふ、いい子だ。声だけで褒められて何となく気持ちが悪い。そこにいるように感じるのに雲の上にいるぐらい遠いその声。 「最後の質問だよ。」 『うん、』 「その彼の"名前"は?」 『馬鹿にしてるんですか?そんなの簡単…。』 あれ?私さっきまで誰の話をしてたんだっけ?頭の片隅に面影がさっきまではくっきりとあったのに今は靄がかかって顔が見えない。すると明かりに照らされて男の子が私に向かって手を差し出して来ているのが分かった。でも私はその手を掴めない。手元や体は見えるのに顔だけは暗闇に紛れて誰か分からない、私にはその手を掴む勇気がなかった。 「その手を取らなくていいのかい?」 その声とともに暗闇に紛れていくその手は名残惜しそうに消えていった。同時に心にあった穴が埋まった気がした。今まで何に悩んでたんだろう。 『不二さん、私は一体誰を想っていたの?』 「そうだね、誰だったんだろう?」 『疑問を疑問で返さないで欲しいです。』 「例えば僕、とか。」 『え?』 「僕を愛してたんじゃないかな?…橙梨。」 暗闇の中に不二さんが現れた。そしてゆっくり私を抱き締める。優しい手付きに誰かを思い出したが私は深く考えることを止めた。目の前にいる人を愛せばいいんだ。 『私は不二さんを愛せばいい?』 「そうだよ。周助って読んで。」 『周助、』 「ん?」 『今幸せ?』 私の言葉に周助は目を見開いてから再び笑顔に戻って幸せだよと呟いた。 私たちの幸せは別々のところにある |