雑貨屋を出てバスに乗って帰ろうと元来た道を辿る。結局バスソルト2本しか買わなかった。店の袋は可愛くていつもは買うとすぐ自分のバッグに入れてしまうが今日は手に持って歩く。バス停に着いて次のバスの時間表を見れば溜め息が零れた。さっき出発したばかりじゃないか。東京だからすぐに次のバスは来るが1人で20分は暇だ。椅子に腰を下ろしてイヤホンを耳に入れた。 それからしばらくしてバスは来た。定期をバッグから出してかざし、後ろの方の2人席の歩道側に座った。道路側は殺風景で車しか見えないが歩道側は店を見ることが出来る。あと、歩く人とか野良猫とかも。土曜の昼だけあって道は人で溢れていた。探せば1人ぐらい知り合いがいるかもしれない。食い入るように窓の外を見つめていると前方に風に揺れる青髪の彼を見つけた。少し距離があるが多分あれは彼で間違いない。だって離れていてもこのオーラ、惹きつけられて目が離せなくなる。 『精市くん、』 確か部活じゃなかったっけ。なのに彼が着ているのは普段着、より少しだけおしゃれな服。驚愕なのは右隣り並んで微笑んでいる、奈緒ちゃん… 嘘つき。今日は部活だって言ったのに、女の子とデートだったんだ。窓の外が急に色あせて見えて胸の中に黒い塊が渦を巻く。スカートの上で握り拳を固めた。 「茅野さん、このバスに乗ってたんだ。」 『不二さん…?』 乗って来たのは不二さんとその弟さん。でも今は人となんて話したくはなかった。特に不二さんのような鋭そうで危険な匂いがする人は。 「泣いてるの?」 『ほっといてください。』 「あ、もしかして別れたの?」 『違います。不二さんは私の傷なんか抉って楽しいんですか。』 「いや、僕にも良心はあるよ。」 やっぱり嫌だこの人。言っていることが矛盾だらけで全然噛み合っていない。大体別れたのなんて普通聞かないだろう、女の子扱いに慣れてるはずなのに…、いや私のことが嫌いなのか。顔を見たくなくて目を逸らした。 「嫉妬だよね、醜くて胸が締め付けられて憎悪すら浮かぶ…。」 『何を言ってるの、』 「見てごらん自分の顔。」 トンネルのような暗い道に差し掛かる。すると窓には私の顔と不二さんの顔が浮かび上がった。 「歪んでいるよ。とても綺麗だ。」 『やめて、そんな言葉聞きたくないの。』 「じゃあこんな世界見なければいい、そしたら苦しまず何も知らないまま生きていける。」 さぁ、眠ってしまえ。 「次に君が見る世界に彼は存在しない。それこそが君の幸せだ。」 瞼が落ちて私の世界から光が消えた。 |