「血くれよ。」
『頼み方がよくないと思うんだけど。』

夜になって獣になった彼が現れたと思ったら早速血を要求してきた。手で払うとすり寄ってきてベタベタ触ってもくる。発情期か。

『第一さっきまで動けてたじゃん。』
「どうやら昼の俺は心配をかけさせたくない性格みたいだな。」
『どうやらじゃないんだけど!そんなフラフラなやつが風呂なんか入れるか。』
「んー、俺よく分かんない?」
『かわいこぶっても無駄。』

舌打ちしながらもフラフラと近付いて来る。手の内は読めているので何も声はかけない。同情を誘う事こそが狙いなのだ。なるべく背中…、つまりは隙を見せないようにして移動するが野生の勘には勝てなかった。私のちょっとした反応にも俊敏であっという間に回り込まれてしまう。

「ほんとに俺死ぬよ?」
『今生きてるから大丈夫、寝たら血ぐらい戻るって。何ならレバーとかホウレン草食べる?』
「いらない、俺が欲しいのは血であって鉄分じゃないし。」

あぁ、しつこい。

『…コンビニでも行こうかな。』
「今何時だと思ってるの?俺以外に襲われていいわけ?」
『いやいや精市くんに許可したつもりもないよ。』
「どうしても行くなら俺も着いてく。」

その格好で、と言う前に精市くんはパーカーをかぶった。耳のせいで少し帽子が膨らむのは不自然ではあるが何しろビジュアルがいいからカバーは容易だ。逃げるつもりで言ったのに完全に外出モードになってしまったので私もパーカーを来た。鍵をかけて外に出ると夜風が髪を揺らした。肌寒い季節へとなったようだ。

『寒いね。』
「そうだね。」
『…何でそんな後ろ歩くの。』

私の2歩ぐらい後ろというペースを守って歩く精市くんに疑問を持つ。2人なら並列して歩くものだと思うわけだが。

「気にしないでくれるかな。」

笑顔ではぐらかされた。

何も気にしないようにして歩く。…駄目だ。気になって後ろをついつい振り返ってしまう。

『うわっ!』

前を向いていなかったせいで何かに躓いた。地面にスライディングかと思われたが精市くんが手を引いてくれたおかげで助かった。見ればそれは蒼い毛玉。否、高級感溢れるロシアンブルー?

『猫が倒れてる!』
「ほんとだ。」
『手当てしないと!精市くん、連れて帰ろう!』
「えー…?」

抱き抱えようとしゃがみ込み手を伸ばすと飛び起きた猫が私の手の甲をひっかいた。じわりと血が滲んでそれを待ってましたと言わんばかりに精市くんが舐めとる。それを猫は不審な目でじっと見ていた。


「美味しかった。猫もいいかも、飼うの賛成。」
『何で自分の利点しか考えないかなぁ。』
「ほら、おいで。」

精市くんは昼の時ような甘い声で猫を呼んだ。にゃおん、一鳴きして精市くんの頬をひっかいた。そのせいあって瞬く間に笑顔が消えて張り詰めた空気になる。猫もそれを感じ取ったのか一歩たじろいた。見逃さずに精市くんが捕まえる。

「後で覚悟しとくんだよ?怪我さえなけばお前なんて拾わないんだから。」
『なんだかんだ言って拾うんじゃん。』
「何か言った?」
『…別に。』


都合のいい事しか聞かない



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