朝起きると一人暮らしのはずで一人で寝ているはずの私のベッドに綺麗に眠る青年がいた。顔はキスなんて直ぐできそうなくらいに近く向かい合わせ。

『うわぁぁあ!』
「い゙っ…。」

驚きのあまり突き飛ばしてしまい青年はベッドから落ちた。…途端に昨日の出来ごとを思い出して慌てて青年に駆け寄った。

『ごめん!忘れてた。』
「うん、気にしないで。俺が隣りに寝てたからびっくりしたんだろう?お互い様だよ。」


ふわりと笑ってとんでもない事を口にした。こいつは誰だ?昨日までのあのクソ悪い性格の名残は全くなくて更に耳や尻尾も消えてしまっている。ただの、感じいい青年。

「俺、夜は獣なんだ。朝になるとこうして人間に戻って性格も真逆に変わる。」
『なるほど。』
「そうだ、自己紹介まだだったね。俺は幸村精市、精市って呼んで。年は16。」
『私は茅野橙梨。何て呼んでくれたって構わない。よろしく、人間の精市。』
「獣の俺にはよろしくしてくれないんだ?」
『だって…。』
「いくら真逆って言っても記憶は共通だからね、今日の夜覚悟しておいた方がいいよ。」

結局こっちの精市も性格に難癖ありじゃないか。まだ聞かなくてはならない話はたくさんあるが学業優先のため朝ご飯を食べて自分の弁当と精市の弁当を作る。昼は帰って来れないので彼の昼ご飯は作らなければならないのであろう。お呼び出しは後免だ。


「ふぅん、学校か…。」
『5時には帰るから、お留守番よろしくね。』
「いってらっしゃい。」

精市は私のおでこにキスをしてまた寝ると一言告げれば寝室に戻って行った。



一方バス待ちの私はバス停の椅子に腰掛けて手帳を開いていた。今日も夜19時から22時までバイトが入っている。私は年齢を誤魔化しているため深夜バイトは楽勝。いけないって事は分かっているけど。


「お嬢さん。」

耳に息を吹き掛けられて振り向くとクラスメイト兼伊達眼鏡の奴がいた。

「なんやねん、兼伊達眼鏡て。」
『何となく?』
「…橙梨お前なんか飼い始めたんか?獣の臭いがする。」
『え?』
「猫とか犬とかちゃうで?もっと大きなモンや。心当たりあるんやろ?」

忍足侑士。
侮れない相手。相手の心を見透かすと同時に自分の心をけして相手に見せない。

ここで昨日から豹人間を飼い始めました〜、何て言えたものか。ドン引きもしくは精神科に連れて行かされそうな気がする。きっとこれは話すべきじゃない。


「…なぁ、もしかして何やけど。」


それ、夜は獣、昼は人間なんちゃう?



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