精市side

不二に約束を取り付けた。昼に家に行って観葉植物を渡すという理由で。案外簡単にい
ってよかった、絶対俺の声引きつってたはず。長居出来るように茶菓子も忘れない。あと護身用に柳がくれた獣化を抑える薬を持った。あちら側に乾がいるかもしれない以上油断は禁物なのだそうだ。あいつら完全に俺たちで実験競争をしてるんだろう、この件が片付いたら締めないといけないな。

東京までは案外近かった。そこから不二の家の近くに着くような電車に乗り換えて徒歩数分、ついにこのときがきた。インターホンを押す手が震える。

「やぁ幸村、よく来てくれたね。」
「あぁ、植物好きな知り合いなんて君ぐらいしかいなくて。それに大会以来だ。」
「外じゃ暑いから上がって。」
「ありがとう。」

ここからは気を抜けない。靴を脱いで不二の後をついて歩く。

「一人先客がいるんだ。」
「先客?俺来てもよかったの?」
「気にしないで、彼女も君に会いたいって言っていたから。」
「彼女?」

リビングのドアを開けるとそこには見慣れた女がいた。


「精市くん、こんなところで会えるなんてね。」
「奈緒…?」
「ほんとに来るとは思わなかった、橙梨さんのためならそこまで本気になれるんだね、お姉ちゃんの時は絶対しなかった事も。」

二人は俺の前に並んでたつ。何故、奈緒が。橙梨はどこにいるんだ。奈緒の手には刃物が握られている。どうやら俺を殺したいらしい。そりゃそうだ、奈緒が俺の事をよく思っているはずがない。今までああやって絡んできたのは復讐のチャンスを狙っていたからだ。ナイフを胸の位置に構え俺に向ける。

「私あなたがだいっきらい。偽善者ぶって笑顔振りまいてお姉ちゃんたぶらかして。最初はあんたならいいって、お姉ちゃん守ってくれるって思ったのに。嘘つき、お姉ちゃんが事故死なんてするわけないじゃない!」
「僕も君が嫌いだ。事故死に見せかけて殺そうなんてなんて滑稽な事考えてくれたんだろうね。化け物の癖に。どうせ血をあるだけ取って捨てたんだろ?最低だよ。」
「化け物、ね。」

どうやらもう俺が獣化できる事がわかっているらしい。それにしても言ってくれるなあ。それでも俺は笑顔を絶やさない。

「不二に奈緒、俺は君たちに繋がりがあるなんて知らなかったよ。」
「そんな事は今はどうでもいいわ。あんたには死んで償ってもらう。橙梨さんのために。」
「何故それが橙梨のために繋がるんだい?」
「当たり前でしょう?血だけ取って捨てるやつなんてこの世のゴミよ。これ以上犠牲を出さないためにもね。でも橙梨さんの方はあんたのこと覚えたまま悲しむ。結局被害者はこっちなの。だからね、橙梨さんには忘れてもらった。」

あんたと過ごした時間を全部。奈緒はニタリと笑って出ておいでとドアにむかって呼びかけた。そう言われて別の部屋から出てきたのは虚ろな目をした橙梨。俺を見ても反応すら示さない。不二は彼女を抱きしめて、彼女は不二を強く抱きしめている。

「苦しい?でもね、私たちの苦しみはそんなもんじゃない。」


俺に向けられた憎悪は思いのほか大きいようだ



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