朝起きるとそこはソファーで昨日泣き疲れたまま眠った事を悟った。タオルケットは私の寝相が悪かったのだろう、落ちて下でくちゃっと丸まっていた。精市くんは。寝室に向かう。ベッドを覗くとそこはもぬけの殻。

珍しい、こんな朝早くからいないなんて。とりあえずご飯を食べようとキッチンに立てばラップに包まれたご飯に味噌汁、焼き魚がきれいに盛り付けられている。横には付箋が貼ってあり、部活に行ってきますと書かれていた。

『部活!?』

精市くんて学生だったのか。てっきりヒモか何かかと思っていた。

いや、良く考えればジローや仁王くんの知り合い。学生という可能性も無きにしも非ずなのだ。この家には精市くんの制服なんてないから一々朝は家に戻って着替えて通っていたのだろうか。親は先祖代々獣化する家系なら無断外泊、門限も厳しくないと推測できる。それぐらい言ってくれればいいのに。シャツにアイロンだって喜んでかける。

レンジで温めて食べて着替えた。今日はこの前の学校の帰りに見つけた雑貨屋さんに行く予定。リラックスのためにバスソルトやアロマを見たい。使わなくても飾っておくだけで可愛いから好きだ。イヤホンを耳に入れて家を出た。

私の家からは少し遠いためバスを使う。着く頃にはちょうど開店してるんじゃないだろうか。予想は見事に当たりで行けば店は開いていたが客は私とちらほらいるぐらい。その方が私としては見やすくて好都合。目当てのバス用品をいくつか籠に入れてコーナーを移動する。

角を曲がってふと目に付いたのは光に当たって輝くガラスのフォトフレーム。そういえば出会ってから一度も精市くんと写真を撮った事なかったっけ。食い入るように見つめていたらしく隣りから苦笑が聞こえた。

「あ、ごめんね。ずっとそれ見て睨んでたのが面白くて。」
『いえ、…もしかして買います?』
「そのつもりだったけど君に譲るよ。幸村と撮ったの飾ればいいんじゃない?」

何で幸村くんといることを知っているんだ。でも私はこの人、忍足から聞いたことがある。

「何で知ってるんだって顔してるね。」
『不二、さん。』
「ああ、知ってるんだ。」
『忍足から聞いたことあります。自分は氷帝の天才、青学にも天才がいて不二周助っていうって。』
「氷帝か…、てっきり立海かと思ってたよ。」
『?』

いや、なんでもない。不二さんはそう言って流れを止めた。この人ずっと笑っているから感情が読めない。天才はポーカーフェイスという決まりでもあるのか。

「茅野さんもうちのテニス部じゃ有名だよ。神の子幸村の2人目の彼女ってね。」
『そう、ですか。』

店の外に茶色い髪の単発の子がいて何か叫んでいるように見えた。

「そろそろ僕は失礼するよ、弟が呼んでるみたいだ。じゃあまた、」

不二さんは手を振りながら会計へ向かって行った。私はガラスのフォトフレームを掴んだが買う気が無くなってしまった。不二さんの言葉には魔法でも含まれているのかもしれない。私の気持ちはすっかり萎えて2人目と言う言葉だけが脳の奥にこびりついて離れなかった。


新たな出会いも波乱の予感



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -