気まずい。ソファーに並んだ時に一人分空いた距離がもどかしい。あの女の子は誰だ、なんて一人前に嫉妬なんかしてもやもやしている。

「…何この距離、気持ち悪いんだけど。俺から寄ってこいって意味?」

先に口を開いたのは獣の彼のようで私も無言の気まずさが少し抜けた。

『別に、特に意味はないけど。』
「ふぅん。」

そのまま私との距離を一気に詰めた。触れてる肩が熱い。もしやこれが噂のデレ期ってやつだろうか。最近近付いてくる事が多い気がする。

「何睨んでるの。」
『え、私睨んでた?』
「うん。そんなに嫌なわけ?」
『そういう意味じゃなくてね、デレ期かなって。』
「…ただの気紛れだから。」

ああ、そうだった。彼はネコ科だった。孤を描いた唇がなんともエロティック。そのうちに私の首を片手で撫でてきたのでお腹が空いているようである。そういえばあまり血をあげてなかったっけ。いい?と聞かれ、いいよと答えた。ちくり。痛いなぁ、何回噛まれても慣れない。吸われてる時は何もかも忘れちゃうくらい気持ち良くて同時に凄く虚しい。

「…は、」

息遣いとか口端に少し残った私の血を舐めるところが好き。私の首元を一舐めして止血した。


「何で、泣いてんの…?」
『え、あ…、』
「痛かった?」

珍しくオロオロとうろたえている彼に私は嗚咽でなかなか答える事が出来ない。抱き締められて背中を優しく擦ってもらっている。

『違うの、心がどうしようもなく痛い。』

また涙を零し出す。目を擦ろうとする手を遮られ彼の袖に染み込む。汚いのに。

「我慢してる事があるんだろう?全部聞いてやるから残さず話せ、ゆっくりでいいから。」
『う、ん。』

彼の服からは私と同じ匂いの洗剤なのに花の香りが増してて安心する。深く息を吸って吐いてを繰り返した。


『あの女の子、今日すれ違った子は誰?』
「あぁ、奈緒の事。」
『最近すごく精市くんの周りが気になって仕方ないの。』
「それでやきもち、ね。」
『変かな?』
「全然。それに奈緒は妹みたいなものだから別に気にする事ないよ。俺の主人はおまえしかいないんだから。」

他は、って聞くけど精市くん。キスで口が塞がってたら何も話せないよ。

秘密は2人のもの



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