帰り道、私の足はとても重い。精市くんは私が柳くんから何を言われたかを知らないので落ち込んでいる訳を知らない。話しかけてくれてる彼には悪いがあいまいな返事をするしか気力が沸かないのだ。 「どうしたの?気分でも悪い?」 『別に、普通だよ。』 「さっきから全然話聞いて無いみたいだから心配なんだよ。」 『それは…。』 言えない。私の他に守るべき人がいたの?なんて。聞いたとしても亡くなっているからそれを掘り返す私は最低な女になってしまう。 『ちょっと飲み過ぎちゃって。』 「そう…、俺には言えないんだ。」 『そんなこと、』 「信用出来ない?…昔の俺なら君を目茶苦茶困らせたけど今は少しでも力になってあげたいと思うんだけど。」 私を真っ直ぐ射ぬくその瞳は吸い込まれそうなほどに深い青。安心できるけど私だって困らせたりしたくない。私たちの間には契約という繋がりしかないのだから踏み込み過ぎていなくなってしまうのが怖いんだ。 黙ったままいると折れたのか何も言わずに何歩か私の前を歩いていく。それでも一定距離を保った間隔で歩くのは私のためなのだろう。そんな気遣いをさせているって事に胸が痛い。彼は大人だ。 『精市くん、ちゃんと聞いてくれる?』 普通こんな聴き方をすれば聞かない、なんて答える方が少ないけれど念のため聞く。 「話してくれるの?」 『私を嫌いになったりしないなら。』 「当たり前だろ。」 二三回、ぽんぽんと頭を優しく叩かれた。優しい笑顔を浮かべて。さっきより幾分軽くなった口を動かし頭の中では言葉を選ぶ。そして発せられた言葉は私とは違う甘く可愛い声に遮られた。 「幸村さん、ですよね?」 ワンピースを着た私より少し小さいか同い年ぐらいの少女。知り合いなのだろうけれどお互いあまりいい顔をしてないのは何故だろう。 「奈緒…、」 「久しぶりですね。元気そうで安心です。」 「あぁ。」 「あの日以来全く会いませんから心配してたんですよ。…新しい彼女さん?」 彼女と目が合って微笑まれたが多分私は笑えていない。口元が引きつってるの自分でも分かるもん。精市くんは迷いつつも私を彼女じゃないと否定した。そんな関係で無いのは分ってるけれど改めて思い知らされるのは辛い。 「仲良さそうに見えますけど違うんですか…。それでは私急ぐので。また会いましょうね、幸村さん。」 カツカツとヒールの音を響かせて私達の横を通り過ぎていった。すれ違いざまに睨まれた気がしたのは気のせいであって欲しい。 お互いの謎は深まる一方 |