『どういう意味…?』
「意味も何もそのまんまだよ、俺の飼い主になればいい。」
『飼い主は何をすればいいの?』
「俺に食事を与えたり…、まぁ養えばいいんだ。」
『それって立場逆なんじゃ…。』
「そうだね。嫌なら一発がぶりと…。」
『…貴方を飼えばいいんでしょ。』
「馬鹿そうなのに理解早いね、そういう女嫌いじゃないよ。」

彼の口振りにイラついたがたて突いて命を落としたくはないので反論は出来なかった。飼い主…、聞こえはいいが要は見張られているという事だろう。彼を見れば嬉しそうに私のとなりを並んで歩いていた。


『貴方は何故たくさんの女を殺していたの?』
「…好きで殺したりしていた訳ではないよ、俺はきれいなものが好きだからね。」
『でもさっきの女は。』
「俺が獣だから。獣の本能なんだよ。」

獣は力の加減を知らない。強過ぎる力ゆえ弱い者を傷つけてしまう。彼のような豹は月に1度ほどこうやって血を求めさ迷い歩くらしい。そして目当ての女がいると血を分けて貰い生き長らえる。別に絶対血がないと生きられなくはない。生物的欲求なのだという。


「君が飼い主なら俺はもう人を殺したりしないよ。」
『そんな保証はないじゃない。』
「いいや、保証はある。飼い主と契約をしたらもう飼い主からしか血は貰ってはいけないという決まりというか掟があるんだ。」
『ちょっと待って私契約なんて聞いてない。』
「当たり前だよ言ってないし、馬鹿?」
『五月蠅い!』
「…俺にそんな口きいていいとでも思ってるの?」


歩いていた足が止まり一気に距離をつめられ首に牙が軽く刺さった。犬や猫がよくやる甘噛み、あの感覚に似ている。

「四の五の言っていては逃げられそうだからここでもう契約することにするよ。」

その言葉が事態を飲み込むには不十分だった。直後に鋭い痛みがして痛みに耐えきれず掴んでいたコンビニ袋が下に落ちた。ずきずきと鈍く痛む首から彼が離れることはない。いまだなお流れているだろう血を舐め取っては甘噛みを繰り返す。

『痛い。』
「当たり前じゃないか一応契約なんだからー…。はい、終わり。」
『何これこれでいいの?血は?出てる?』
「血はもうないよ、俺が全部美味しく頂いたから。」

そう言って唇に着いた血をぺろりと舌でなめる。

「一種のマーキングみたいなものだね。ただの傷じゃないからそれ、消えないよ。」


よろしく、ご主人サマ。



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