朝の事件のせいで遅刻をした私はこってりと先生に怒られて教室に入るはめになった。反省文を描かなくても良かっただけましと思おう。授業は始まる直前であったが黒板に大きく書かれた自習、の二文字に私は息を吐き机に向かう。

「おはよ、橙梨!」
『おはよう慈郎。』
「橙梨が遅刻なんて珍C。また幸村と何かあった?」
『精市くんは関係あると言えばあるけど面白い事件があってね。』

私は簡易な説明をする。精市くんに手の甲を舐められたとかは恥ずかしくて省いたけれど。慈郎は結構真剣に聞いてくれだがすべてを話し終わった後に腹を抱えて笑いだした。

「それって絶対跡部だC!雄猫とかまじまじ面白い!」
『跡部…?』
「橙梨知らねぇの?この学校のキングでありテニス部部長!よく朝会とかで演説してんじゃん!」

あとは意外と優しいとか常識あるようでないとか跡部君の事をたくさん話してくれた。慈郎は中学からテニス部で一緒らしく信頼していると強い目で言う。それでも私は朝の朝会は大体寝てるため彼の話をちゃんと聞いた事はない上、テニス部の活動を見に行った事もないから本当に知らないのだ。何回から慈郎に誘われているが全部断ってきた。あんな黄色い悲鳴をあげた女子の大群に入って行く勇気を生憎私は持ち合わせていない。

『私外部生だからさ、氷帝2年目にはなるけど知らない事だらけだよ。』
「…氷帝の生徒なら絶対知ってると思ってた。」

少し呆れて見られるがすぐに橙梨らしいと慈郎は笑う。


『跡部くん?が女を雌猫と言う理由って何?』
「詳しくは知らねぇけど…、自分らに盛って騒ぐからじゃねぇ?」
『そっか。』
「何?跡部が気になんの?」
『女の子からしてみたらいきなり雌猫、なんて失礼だなって思ったから知りたくなっただけ。』

確かに騒がれたら女嫌いになってつい雌猫って呼んでしまうかも…、ってそれはないか。空想していたら前から自習用プリントが回ってきたので一枚取って後ろへ回す。その間慈郎からの視線は凄まじかった。

『どうかした?』
「橙梨が人を気になるなんて初めて聞いたC。」
『…そうだっけ。』
「それにさ、表情と性格が前より柔らかくなった気がする。…幸村と出会ってから。」


そこで会話は途切れてしまったが慈郎が落としていった爆弾はかなり大きなものとなった。そんなの無自覚だったし気にした事もなかった。言われてみたら内面は変わっているかもしれない。

あんまり人の深いところまで踏み込もうとはしていなかった私。精市くんは簡単に私の心の中に入り込んで来た。素直だけどずるくて、でも悲しく笑うから私はそんな彼を知りたくなってしまう。隣りにいる事が当たり前になっていくうちにどんどん私の中の精市くんへの感情が大きくなっていく。彼が餌として私を欲するように私も彼の何かを欲している。残念ながらまだ何かは分からないが。

チャイムが鳴り響き1時間目の終了を告げる。慈郎は机につっぷつして寝ており夢の中。私はシャープペンシルで白紙のプリントに名前だけ書き提出する。補習、かなぁ。


思いは馳せる



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