強く床に叩き付けられた。背中が痛いけど頭は精市くんの手のおかげで痛くない。何が起きたんだろう。唇がくっつきそうなぐらい近付いた精市くんの顔。

「橙梨、これが証明だから。今回はちゃんと守ったよ。」
『何の話…?』
「芥川、後は頼んだ。じゃないとお前を呼んだ意味がない。」
「幸村!」

私の体の横にゆっくりと精市くんの顔が、体が転がった。その背中には深々と刺さった果物ナイフ。溢れる血は止まらず流れ服を汚していく。ナイフを抜こうと手を伸ばす。

「抜いちゃダメだ!下手に抜くと逆に失血しちゃう!」
『でも!慈郎どうしたら!』
「忍足に連絡して!あそこの病院なら獣も受け入れてくれる!」

その言葉に服のポケットに手を突っ込むがそれらしいものはない。慈郎が急かすが私だって焦っている。精市くんにこんなところで死んで欲しくない。


「お探し物はこれじゃなか?」

仁王くんが笑って床に落とした個体。それは紛れもなく私の携帯だった。

『返して!』
「だれが返すか。幸村に刺さったのは大誤算じゃったが…、まぁいい。みんなまとめてさようならで。」

私の携帯を容赦なく踏みつぶす。その頃には精市くんの服は完全に血のいろだった。

『あんた達知り合いなんじゃないの!?』
「もういい橙梨!俺が電話するC!」
「させない。」

口論していた私たちに近付き慈郎を一蹴りで吹っ飛ばす。ガンと叩き付けられる音が響いた。

「どこから入ったが知らんが俺が死なん限りここからは出れない。希望が絶たれちゃったな橙梨ちゃん…?」
『来ないで!』
「コレクションに追加させてもらうぜよ。」

狭い部屋の中を行ったり来たりで駆け回る。私は必死に逃げるが仁王くんは余裕で歩いて追いかけてきた。足が縺れて何度も転びそうになるが私が時間を稼がなければ。朝になればきっと仁王くんも元に戻るはず。でも精市くんは…、時間がない。

『あっ!』

落ちていた私の携帯の破片に躓いて転んだ。じりじりと近付く足。

「チェックメイト、な。」

仁王くんの手が私の手首を掴む。



「それはこっちのセリフだろぃ。」
「仁王、厄介なことをしてくれたな。」

知らない赤髪さんと茶髪の長身さんがドアを外から壊し仁王くんを捕まえた。赤髪さんの頭には某夢の国のねずみのような大きな耳。茶髪さんが仁王くんに何かを頭から浴びせる。

「やめろ…!」

大きく喚いて仁王くんが倒れた。耳はそのままだが尻尾が9本から1本に減っていく。

「おい柳!幸村くんは大丈夫なのかよぃ!」
「あぁ、ナイフを引き抜いておけ。あいつの治癒力は計り知れないからな。」
『…何でここが分かったの?』
「芥川からの電話だ。」
『でもあれかける前に仁王くんに吹っ飛ばされて、』
「繋がったままだった、だからお前達の声を聞いて理解した。合鍵を借りてここを探し当てた。」
『防音だから分からないんじゃ。』
「そのための俺だよぃ!動物の耳は人間よりはるかにいいからな!」
「精市が気付いたのも聴力だろう。」

怪我した箇所を柳くんとやらが手当てしてくれた。慈郎は丸井くんに起こされて談笑している。やっと終わったんだ。


これは終わりではなくはじまりの警鐘だった。



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