慈郎に枷を開けてもらい自由になったが精神的な疲労からか膝から崩れ落ちた。それを見た精市くんが仁王くんを睨み付ける。

「幸村…。」
「仁王、これはやり過ぎだよね。どういうつもりだ。」
「…見たままなんじゃなか?」
「君が何をやりたいかは知らないがとっくに君の嘘は分かってたよ。」
「は?」
「神隠しなんて嘘だって事。」

仁王くんの顔色が変わった。

「古い本で見たんだ、妖孤は契約を必要としない種族だって。だから消えたんじゃなく君が故意に消したんじゃないかって。」
「それで橙梨ちゃんを実験に使ったわけか。」
「はぁ!?幸村実験なんて聞いてないC!ピンチだからって聞いて来たのに!」
「芥川、後で説明するから。」


『実、験…?』

実験のために私は何故こんなめに合わなければいけない。そんなもの自分達で勝手にやってよ。何で私が。ナイフで首を切られ目をえぐられそうになった私にごめんねの一言すらないこいつは人間の心がないのか。

『そっか、獣に人間の心なんて元からないよね。』
「橙梨?」

慈郎が心配そうに私の顔をのぞき込む。私は慈郎を押し退けて二人の間に入り精市くんと向かい合わせになる。

『アンタと関わってからろくな事がない、助けて欲しいなんて思ったけど実権なら助けにくるのはシナリオ通りだったんでしょ?』
「違う、実験なんてのは嘘だ。」
『じゃあ何で仁王くんが危険だって知ってて私を仁王くんと二人きりにしたの?』
「それは…。」
『いますぐ契約を解消して。出来るはずだよね、慈郎は出来たんだから。』

「わけは全部話すけど契約の解消は出来ない。」

『なにそれ、こっちがどういう思いしたか知ってるの。もうあんた達なんかと関わりたくなんかないの!』

これは心の底から思った事で偽りはなかった。この言葉が傷つけている事は重々承知だ。でも私の苦痛と比べたら計り知れない。



「ごめん、ごめんね…。」

一瞬何をされているか分からなかった。あの獣の精市くんが私を抱き締めながら謝っている。

「ごめん、だから俺を捨てないで。」
『…で?餌が必要だからまた演技で引き戻そうとするの?』
「違う!俺にとって餌としてじゃなくて側にいる一人の人間として必要だから…!」

なんでだろう、なんでたったこれだけで涙が溢れるんだ。いやだ、こんな自分が。さっきまで関わりたくもないと思ってた人に揺れてるのだから。彼の服の裾を掴もうと手を伸ばそうとした。

「橙梨!危ない!」

慈郎の悲痛な叫びが響く。

「背中ががら空きぜよ。」

仁王の手に握られたナイフが振り落とされた。



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