幸村side


橙梨が出て行った。

俺は肝心なときに大切な人すら守れない臆病者。最初はめんどくさいと思ってたけどもう一人の自分が彼女と話す度羨ましく見ていた。自分には見せない笑顔とかに無意識に嫉妬したりして。あの羊や仁王にさえも執着心だだ漏れにして恥ずかしい。彼らがもらえる愛をもらえない自分に苛立ってあたって泣かせているのは俺。

「何やってんだよ…。」

また呆れての繰り返し。

でも今回は前の羊とはわけが違う。相手が仁王、いや妖孤であるゆえ。

もともと俺たちは動物ごとに契約方法から何からバラバラである。俺は血を、羊は指切りと多種多様。何にせよ俺たちにとっての契約というのは相手を自分の側に置いておくと言う執着心の現れだった。しかし仁王は、俺たちとは違っていた…。

2年前、仁王には彼女がいた。幼馴染みでいつも仲良くて学校公認のバカップル。仁王が獣だという事をその彼女は全く知らなくて、仁王は言った。自分は完全なる人間じゃないと。当然彼女は驚く。しかしどんな姿でも受け入れると彼女は優しく笑ったらしい。だがその頃仁王はまだ自分の能力を知らなかった。

そして満月の夜2人は契約を、永遠を誓う事となる。それに相応しいような契約のキスを。でも目を開けると彼女は消えて無くなっていた。世間では神隠しと呼ばれるもの。それが彼の契約の形だったのだ。精神が脆い子供の彼にとって最愛の彼女が消えたのは計り知れない傷。以降女に対して壁を作って干渉を許さなかった仁王が橙梨を受け入れている。その事実が同じ過ちを繰り返すことになりそうで俺は、俺は…。

「…俺は一体どうしたいんだ…?」


橙梨を誰かに渡したくない、消されたくない、側に置いておきたい?どれも違う。

俺が、俺自身が彼女の側にいたい。


箪笥からパーカーを引っ張りだしフードを深くかぶった。耳が擦れて感じ悪いだとかは気にする暇もない。急ぎながらも鍵をちゃんとかけて夜を走る。月の明かりが眩しい満月の夜。俺の牙が血を求めて疼く。

あぁ、彼女の血が欲しい。所詮俺は彼女を餌以上の存在で見ているのだ。


俺を動かしているのは彼女



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