…朝だ。ベッド脇の小窓のカーテンの隙間から光が漏れている。しかしいつ寝たんだろうか。全く記憶がない。詳しくいえば夜の精市にビンタをかましてから。それに布団に入っているはずなのに嫌に涼しい、隣に精市もいたら更に暖かいはず。布団から肩を出すと素肌が覗く。まさか。

『…裸!?』

恐る恐る精市を見ると彼もまた裸だった。帰ってきてからまた詳しく聞かなくては。マチガイが起きていませんように、そんな確率は極めて低い状況だけどね。今日も弁当を1つ置いて家を出た。


『ねぇ忍足、友達の話なんだけどさ。朝起きたら裸で寝てて隣りに裸の男がいる。夜の記憶がない。この場合ってやばい?』
「やばいもなんもそれ…、自分の事やろ。」

朝の登校中にまた忍足と話す機会があったのでさりげなく聞いてみた。男目線で聞きたかったしこいつそういう体験ありそうだし。見た目だけだけど。

「未遂。」
『まじか!』
「な訳ないやろアホが!」

やっぱりそうだよね、大体分かってた。あんな状況で何もないなんてよっぽどだろう。なかったら私女として魅力なさ過ぎ。

「どうせ大きなペットに盛られたんやろ全くしつけはどないなっとんねん。」
『いやー、昨日ビンタ一発かましてから記憶なくてさ。』
「…原因それか。」
『多分?』
「気ぃつけぇ、前にも言ったと思うけど。」
『ん、ありがとう。』

ほな、また。それだけ言ってそれぞれの教室へと向かう。慈郎は登校して来ていた。入って来た私を見てはうつぶせたり首を振ったり明らかに挙動不審。そんな彼に近付いて行く。

『おはよう、慈郎。』
「お、おはよー…橙梨…。」
『昨日の事だけどさ。』

話に触れた瞬間慈郎の肩が跳ねた。

「ごめんね。」
『え?』
「ごめんね、俺の勝手なわがままだったC。」

変わった何て言ったけど人は毎日違う自分になってる。昨日より今日、今日より明日って。橙梨と俺の関係は変わらない、むしろ深くなって行くって思ってた。契約したいって何度も思ったけど今まで通りいかなくなるって自分なりに歯止めかけてさ、そんな中途中から入って来た奴に奪われて、悔しくて。気がついたら怖がらせてて。

俯いてゆっくり自分で言葉を紡いで慈郎は言う。

「昨日言ったじゃん、友達侮辱するなんて許さないって。その言葉でやっと分かった。俺は十分橙梨に大切に思われてるって事。何で分かんなかったんだろ。」

今度はしっかりと私の目を見据えて。何か答えないといけない事は分かっているけど彼にかけて言い言葉が思い付かなかった。


「…橙梨、小指だして。」
『何するの?』
「指切り。大丈夫、もう悪いようにはしないから。」

赤い印がついた方の小指を差し出すと慈郎も赤い印のついた小指を絡めた。指切りげんまん針千本のーます。

「…ずっと仲のいい友達でいてね。」


解かれた指に赤い印は無くなっていた。彼の指もまた然り。

『友達でいいんだ?』
「へ?」
『親友、でしょ。』

我ながら精一杯のくさいセリフを吐いて言えば笑ってうんと答えてくれたのが嬉しくてつられて笑うのだった。


親友っていう愛のカタチは俺が貰ったからね黒豹さん




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