『こんなの慈郎じゃない!』
「あはは、頭おかしくなっちまった?これも俺の一部だよ。」
『…契約はどうしたら解けるの。』
「聞いても意味ないCー、解消する気ないから。」

さっきからずっと笑って人を子馬鹿にしたような態度で話す彼は昼とはまったくの別人だ。精市の言うとおり言う事を聞いておけば…、いいや、それじゃ何の解決にもならない。質問を変える。


『こんな契約してどうしたいの。』
「…分かんない。」

これは予想外の返答だった。てっきり何か目的があってやっていたと思っていた。

『分からないのに?こんなことして楽しい?』
「…橙梨には分かんないよ!」
『言ってくれないと何も変わらないと思う。』
「勝手に変わったのは橙梨じゃんか!昨日まで何にもなかったのに、普通だったのに!俺ずっと我慢して!」
『慈郎…。』
「もういい。俺は羊だけど…、これぐらいは出来る。」

肩に爪が食い込んで顔を近付けて来る。かわいい顔をした羊も結局は獣であってヒトではない。突き飛ばしたくとも突き飛ばせないのは昼間の慈郎がちらつくからだろう。

「…キスしようとしたって意識してくれない。俺はいくら頑張ったって友達にしかなれないんだ。」

悲しそうに顔を歪める。直後にすごい音がして私たちの顔と顔の間に拳がめり込んだ。拳圧で皮膚が切れて血が滲む。


「お前、何?うちの主人に手出してるの?」


…精市だ。拳を引っ込めて私の肩を抱き並列して並ぶ。

「なるほど羊か…、草食動物は臭いが薄いからな。主人の匂いがあって助かったよ。女なんてどうでもいいけど所有物に手を出されるのは嫌いだからね。」
「…おめーが橙梨のペットか。」
「睨んでも無駄無駄、君と俺じゃ天と地ほどの差じゃん。」

しばらく膠着状態が続き精市が先に口を開いた。

「…何にも言う事ないなら橙梨、帰るよ。」
『でも、』
「無害そうだし放っておいてもいいだろ。それともなに、哀れな羊に情が移っちゃった?」

そんな事まで言う必要ないじゃないか。気がついたら私は精市に平手をかましていた。慈郎は目を見開いて固まっている。

『…友達を侮辱するのだけは許さない。』
「しつけのつもりかい?…ふざけんな。」


俺の顔に傷を作った罪は重い



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