「橙梨ちゃん相変わらず5分前行動じゃな。」
『癖だから。あ、仁王くん今日はキッチンなんだね。』
「おん。」

バイト先まで軽く本屋で時間を潰して来たらレストランのウェイターをいつもやっていて仲のいい仁王くんがいた。仁王くんは高校生で同い年…、らしい。聞いたけどプリッとかピヨッとかではぐらかされたのだ。

働く前に慈郎にメールを一通送る。23時に慈郎の家にいくという簡易的なもの。いつもならとっくに寝ている彼だが今日は私のメールの意味を理解していると思う。完全に慈郎が獣と決め付けたわけではないけれど。


「ん、橙梨ちゃんも今日キッチンなん?」
『洗い場みたい。早めに上がるから助かる。』
「手が荒れるもんな。…首、どうしたん?」

しまった、ここの制服は襟が立てられない。というか忘れていた。珍しいものを見る目で見てくる仁王くんは若干いやらしい、いや、エロい。

「彼氏出来たん?にしても酷い独占欲じゃのう。」
『そんなんじゃないよ、彼氏いない歴=年齢だし。』
「じゃー何?」
『内緒。』
「ずるい。」
『仁王くんのよくやる手だよ。』


それから別々の仕事に入りシフトまで働いた。賄い飯は遠慮する。家に精市の作ってくれたご飯が残ってるから。足早にお疲れ様といって店を出た。この店から慈郎の家は比較的近い。

『…はぁ。』

溜め息を一つ吐いて着いたよとメールしようとケータイを出すと窓から顔を出した慈郎が手を振っていた。

「待ってて、今出るC。」

そう言って窓を閉め玄関のドアを開け出て来た。出て来た彼の頭に耳はなく、尻尾もない。よかった、慈郎じゃなかったんだ!

「こんな時間に呼び出すなんて橙梨珍Cー!」
『ん、ちょっとね。』
「…理由あるんだろ?」
『あー…、慈郎と今日指切りしたじゃん?あの後小指こんなんなっちゃってさ、おかしいなー…って。』

こんなでたらめな理由でいくら慈郎といえど誤魔化せないだろう。


「赤いね、指輪みたい。」
『…そう?』
「じゃあ指輪をはめている2人はずっと一緒でしょだねー?」

その発言とともに手を掴まれて慈郎の指と絡められる。彼の小指にも赤いリング痕。さっきまではふわふわしていただけの髪も髪の間から小さな耳が覗いていた。


「気付かなかった?橙梨のいいようで悪いクセ。ここに来たのは5分前。つまり今が23時。」
『やっぱりこれ慈郎が…。』
「正解。だって橙梨が悪いんだよ?俺は何にも悪い事はしてない。」


俺を選ばず他の奴を選んだ君が悪い



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