『ただいまー。』
「おかえりなさい。」
『あれ、いい匂いがする。』
「5時頃帰って来るって言ってたけどなかなか帰って来ないからご飯作ってるんだ、あとは盛り付けるだけだよ。」
『ありがとう。』
「どういたしまして。」

男の子が作ったとは思えないようなおかずの数々。焼き魚におひたし、お味噌汁といった純和食。私の家の冷蔵庫にこんな材料あったっけ。

「買い物行って来たんだ、これレシートね。」
『はーい、あ、今日夜バイトあるんだけど…。』
「気をつけて、帰って来る頃にはきっと獣化してると思うから。」
『うわぁ。』
「ふふふ、精々襲われないようにね。あ、お箸どこにある?」

そういえば一人暮らしだから精市のお箸がない。お弁当のお箸は短くて食べにくいだろう。明日は休日だ、明日出かけて買って来よう。今日はコンビニで貰った割り箸でもだそうか。戸棚から割り箸を出して渡すと異常に反応した。


『割り箸嫌だった?』
「そうじゃない。その小指…。」
『え?』

精市が私の小指を指差すので見ると根元が赤くリング状に線がついていた。念のため指で擦ってみるが取れない。

『何これ…。』
「…契約の証しだ。今日誰に小指を触らせた?」
『分かんない、プリントを渡したりもするし一々小指なんて覚えてないよ。というか契約って何人も出来るものなの?』
「原則決まりはない、飼い主が養えればね。でも変だ、いくら昼だからと言って俺以外の獣の臭いが全くしない。小指からも。」

精市みたいに噛み付いたりするのであれば感覚は覚えているはず。なのに全く身に覚えがない。ましてや獣との接触。夜じゃないから耳も尻尾もない昼は接触しても気付かないであろう。

怪しい人物と言えば忍足。すぐに精市の気配に気付いた。従兄弟さんといえどそう簡単に臭いに気付くかといえばNOじゃないか。でもあいつは人を騙すような奴じゃない。同時に一番疑いたくない人が頭に浮かんで消えてくれない。


…指切りげんまん針千本飲ーます

『指、きった…。』
「何?何か言った?」
『…ごめん、帰って来てからご飯食べる。バイト行くね。』
「ちょっと!今外に出るのは危険だ!」

精市の忠告を遮って外に出た。信じたくない、だから私の目で確かめに行く。


ごめんね、精市。



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