マネージャーの仕事の内容といえばドリンク作りタオル準備球拾いと基本的雑務だ。しかし私はマネージャーでありながらマネージャーじゃない。奴隷といった表現が一番近いんじゃないだろうか。

「すまんなぁ、手が滑ったわぁ。」
「そんなとこにいるんだから当たっても仕方ないC。」

球拾いをしている私に容赦なく打球が飛んでくる。流石レギュラーなだけに足の脛など当たったらダメージのある部分を適格に狙っていた。痣に当たるとわずかに声が漏れる。そういえば桃香ちゃんがいない。ならばドリンクを今日は私が配らなくてはならない。どうせ受け取ってもらえないだろうけれど。球を一通り拾って籠に入れてからコートを離れ部室に向かう。

「黒奈さんどうかしましたか?」
『長太郎…。』

前方から歩いて来たのは長太郎。桃香ちゃんじゃなかった。

『桃香ちゃんが見当たらないからちょっと気になってね。』
「そうですか…。」
『ドリンク取りに部室行ってくるね!長太郎はコート戻った方がいいよ、また何か言われると思うし。』

返事も聞かずに駆け出した。気をつけてくださいねと後ろから聞こえる声に振り向かず手を振った。


部室前に人はいない。鍵をポケットから取り出すとカランと何かが落ちるような音がした。急いで鍵でドアを開ける。

『荒らされてる…。』

絶句だった。部員のロッカーは全開で覗けばドリンクまみれの制服が入っている。床も同じくドリンクまみれ。

『報告しないと。』

いや、報告したらきっとお前がやったくせに嘘吐くんじゃねぇとまた殴られ蹴られる。しかし部員の誰かが来ても私がやった事になる。どのみちこの荒らしの犯人にでっち上げられるのだろう、桃香によって。

悩んでいるとバタンと音を立ててドアが閉まる。しまった、ドアに鍵をさしたままだ。咄嗟にドアを激しく叩き外に向かって叫ぶ。

『人がまだ残ってる!出せ!いるんでしょ!』

そんな甲斐も虚しく鍵のかかる音がした。

「出すわけないでしょ、精々そこで片付けでもしてたら?間に合ったにしてもサボりになるでしょうけど。」
『ふざけないで!』
「何にもふざけてないよ?騙される先輩が悪いんだもん。じゃーね!」

やっぱり桃香ちゃんだったか。部室の鍵は部長が持つ。その他仕事のためにマネージャーが交代制。今日は丁度私が管理する日だった。私がサボってて桃香ちゃんが変わりに鍵当番して間違えて閉じ込めた腹癒せにこんなことしてましたー、何てまた嘘を重ね殴らせたいんだ。

だとしたら一つ疑問が残る。

『鍵を持ってるはずがない桃香ちゃんはどうやって部室に入って荒らしたんだ…?』





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