宍戸side

黒奈が倒れた。部室前に血みどろで横たわっているのを長太郎が見つけたのである。今回ばかりは傷がひどく直る、また元通り笑っていられるなんて言葉をかけられないことは一目でわかる状況だった。長太郎はもう気が動転していて泣きじゃくっている。俺も頭を鈍器で殴られたような感覚だが一番辛いのは黒奈だ。早く運んで手当てしてやらなければ。救急車のひとつでも呼べればいいのだが、結局俺はテニスが大事でこのことを学校を挙げての問題にしたくはない。

「長太郎、担げるか?」
「は、い。」
「早く医務室行くぞ。」
「わかりました…。」

いつもいる保険医は跡部の肩を持つため好きじゃない。それにあいつが手を回しているから黒奈が怪我をしてここで治療をしてもらいにくるのを見計らって出て行く。そんなに金が大事なのか。やっぱり今日もいなかった。

「宍戸さん、ベッドに下ろしてもいいでしょうか。血がついて大事になったりしませんか?」
「ちょっと待ってろ。」

棚の中から出したビニールをベッドに敷いた。そこに横たわらせる。そうすれば血がこすれつくこともないしそのまま処理できる。消毒液などが入ったボックスを開けば中はまぁまぁ充実していてこの辺を隠さないでいてくれるところは感謝している。

「止血は出来ました!」
「わかった。俺が消毒したり拭いたりするからお前は包帯とはさみを用意してくれ。」
「はい。」


正直、女とは思えないくらいの体。痣だらけ傷だらけの一般的に敬遠される。それでも俺は目をそらすことが出来ない。俺だって加担しているようなものなのだから。桃香が来るまではこんな倒れたりすることなんてなかった。桃香さえテニス部のマネージャーにならなければ黒奈は笑っていられたのに。なんでこんな風になってしまったのだろう。俺たちの絆ってそんなに脆いものだったか。

「宍戸さん、手が止まってますけど大丈夫ですか?」
「あぁ。」
「ちょっとだけ相談があるんです。」
「?」

「しばらく黒奈さんから離れたほうがいいと思うんです。」

意味がわからなかった。俺がいなくなったら誰が守るんだ。気がついたら俺は長太郎の胸倉をつかんでいた。

「あのな、お前何言ってるのか分かってんのか!?」
「たぶんですけど、桃香は宍戸さんのこと好いてるんだと思います。」
「それが何だって言うんだよ。」
「だから黒奈さんの事が気に入らないんだと、それで嵌めたんじゃないかって。それで宍戸さんが近づけば近づくほど黒奈さんは傷つく。俺一人で守ったほうが丸く収まると思います。」
「…それでほんとにみんな元通りになるんだよな?」
「少なくとも今よりは落ち着くといいです、こればかりは分かりません。」
「分かった。」

じゃあ、後は任せた。そういって医務室を後にする。目の前には頬をピンクに染めながら微笑む桃香。全然かわいいとかそんな感情はなくて、俺は彼女のためにこいつと戦う。そのためだったら忍足じゃねーけど心閉ざして付き合ったりだって苦じゃない。


その腕を絡めて虚ろな目で笑った



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