02

あれ以来幸村くんはことあるごとに私に絡んで来る。少しすれ違っただけでかわいいね、とか時には寝癖ついてる、なんて言って髪を撫でる。その触れ方がひどく優しいもので同情しているんだって心のどこかで私は感じた。

「神崎さんおはよう。」
『おはよう幸村くん。』
「精市でいいのに。」
『馴々しくない?』
「全然。」
『じゃあ今度からね。』

そういい残して立ち去る。あの笑顔を見ていられない。それに私は異性の名前を呼ぶなんて今は出来ないから。

私が初めて異性を名前で呼んだのはブン太が初めてだった。もともと社交的でない私は軽く男子を名前で呼ぶなど至難の技。(小学生になるぐらいまでは名前呼びだったけど。)中学に入ってもそう、だけどブン太に言われたんだ、名前で呼んでくれと。私の中でどんどんブン太が特別になっていった。今幸村くんを名前で呼んでしまったら"特別"になってしまう。私の中の特別は今も昔もこれからもブン太だけでいい。それ以外いらない。「俺と恋する?」あの言葉が本当だとしても冗談だとしても幸村くんに恋することはない。幸村くんを傷つける結果になったとしても。


「神崎さん何で逃げちゃうの、寂しいなぁもっと話そうよ。」

いつの間に追いかけて来たんだろう。隣りに並んで歩いていた。さっきはテニス部の人達といたはずなのにいいのか。

「ねぇ、聞いてる?」
『聞いてるよ。』
「聞いてないでしょ。」
『聞いてるってば!』
「じゃあ言ってみなよ。」
『う…。』

くすくすと口に手を当てて笑う姿は私よりもその辺の女子よりも可愛いと思う。

『そんな笑わなくてもいいじゃんか。』
「あー…ごめんね、つい可愛くて。」

何でこの人こんな余裕があるの。こういうことがさり気なく言えるからモテるんだろうな、心の底からそう感じた。実際体験したから言える。

「さっき俺は25日空いてるか聞いたんだよね、どう?」
『空いてるよ、ちょうど予定消えたし。』
「よかった、また予定は俺が考えるからさ、アドレス交換しよう。俺神崎さんのアドレス知らないし。」
『うん。』
「きっと楽しいクリスマスになるからさ、楽しみにしててね。」

赤外線通信が終わったケータイを握り締めて言った幸村くんの笑顔にきゅんと胸が高鳴った。

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