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今日は珍しくテニスで忙しい彼が一緒に帰ろうと言ってくれた。もうクリスマスまで一週間、付き合ってもうすぐ1年。ちょうどクリスマスで一周年記念なのだ。今年は彼が好きなケーキでも手作りに作ってあげようって考えていたからもう材料を買って練習だってした。私はもともと料理が下手だから必死に生クリーム作りにも健闘。ようやく出来上がったのだってお世辞にも形がいいとは言えなかった。

部活が終わるのを待って正門で待ち合わせをする。最初こそ切原くんや仁王くんにひやかされはしたがもう慣れてしまっていつの間にか相変わらずじゃのう、に変わっていた。

「わりぃ、待たせちまったな。」
『ううん、帰ろう。』
「おう。」

いつもは手を引かれるはずなのに今日はそれがない。きっと疲れてるんだ、そう思いたい。

『あのさ、ブン太、手繋ぎたいな。』

ビクッと肩が揺れて足が止まった。振り向き様の横顔は歪んでいて、向き合ったときには少しだけ眉が下がっていた。

「ごめん、お前とはもう手つなげねぇ…。」


「別れよう。」


…冗談だよねそんなの。嫌だよずっと一緒だって約束したじゃない。私の手を離さないって言ったのに。テニスしている時の真剣な顔で言わないでよ。

『…うん。』


私の隣りをすり抜けて行く彼を見つめることしか出来なかった。

とっくに知っていたことなのに。この間ぐらいから私じゃない誰かを見つめていたことぐらい分かってた。それを何も言わなかったのは別れを切り出されるのが怖かったから。ねぇ?あの時私が別れたくない、嫌って言ったらあなたは別れないでいてくれた?

…無理、そんなこと分ってる。昨日あの子とちょっと話しただけで顔真っ赤にしちゃって。私には一度だって見せてくれたことのない表情。

『今年は一人ケーキかぁ…。』

あんなに練習したケーキをたべてくれる人は隣りから消えた。自然と涙が落ちる。それを指で拭おうと左手頬へ翳せば薬指にシルバーのペアだったリングがキラキラ輝いている。

そのキラキラが無性にイラついて外して投げようとしたその時、

「何してるの、大事なものなんじゃないの?」

左腕を片手で掴まれ投げるのを阻止された。それは見知った顔でいつも笑っているはずの顔がまったくの無表情だった。

『いらないの、…もう終わったんだから!』

「…捨てる捨てないは勝手だけどまだ好きなうちは持っとけば?想うのは自由だからさ。それに本当にいらなくなった時は丸井に突き返せばいいよ。私にあなたは必要ないですって。」
『未練がましいじゃん。』
「じゃあ未練なんて忘れるぐらい恋すれば?」

そんな相手いるわけないじゃないか。ブン太と一緒にしないでよ。


「…前言撤回だけど。」
『あっ!』

不意をつかれ握っていた手を開かれリングを取られた。何を思ったか彼はそのリングを川に向かって全力投球したのだ。


「俺と恋する?」

晴れ晴れとした表情で彼、幸村精市は言い切った。

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