「…馬鹿じゃないの。」 『さいですね…。』 「少し暑いけど冬のスカートあるしいいか…、そんな勢いよくあげなくても入るはずだから今度は壊さないでね。」 ニコリと引きつった笑みを浮かべて不二は冬のスカートを手渡してきた。飽きれてたね、ファスナー取れた時は。不可抗力ってことでこの話はもうおしまい。着替えが終わる頃には当初のタイムリミット30分のうち15分が経過していたから急いで洗面所へと階段をかけ下りる。 ヘアアイロンのコードをつないでいるうちに顔を洗い好き勝手跳ねている髪をくしで解かした。 『…上手くいかん。』 今日の髪はいつも以上にくるんと巻かれアイロンをかけても一筋縄では戻ってくれない。何度かスプレーをかけて挑戦するが逆効果で更に跳ねるだけ。 『解せぬ。』 「何が?」 『髪がまとまらなくて…。』 「仕方ないなぁ、ほら貸して。」 洗面所に突然入ってきた不二に渡す前に強引にアイロンを手から取られくしで少量ずつストレートに戻される。それも手際よく。それと若干内巻きにされているようなないような…、おそろいみたいじゃないか。洗面台の鏡に映る私は私じゃないみたいで髪型だけで言えば美人だった。髪型だけね、ここ重要。 「前髪もやるんでしょ?」 『うん、前髪だけなら出来るからもういいよ。ありがとう。』 「どうせそう言って出来ないんだからさっさとこっち向いて、向かい合わせの方がやりやすい。」 『…お願いします。』 向かい合わせになると自ずと不二の顔が目に入る。ほんとムカつくぐらいの美形。目を合わせられなくて軽く下を向いた体制でアイロンをかけてもらう。 「…はい、終わり。」 『えっ、ありがとう。』 「どういたしまして。」 不二はほほ笑んでストレートになった私の前髪にキスを落とした。 『何して…!』 「照れてるの?昔よくやったじゃないか、もしかして口がよかった?」 『そんな訳ないでしょ!ほら!行くんじゃないの!?』 「あはは、相変わらず誤魔化すの下手だなぁ。」 笑ってからかってくる不二の背中を押して洗面所をあとにする。いつもならこんなことで動揺したりなんてしないのに。リビングを通れば私の朝ご飯と思われるロールパンとサラダなどが準備されていた。時間がおしているのでロールパンを口にくわえて靴を履く。ここは普通食パンじゃね?それで曲がり角でぶつかってイタタタタ…あれ、君怪我してない?フラグじゃないの!? 「いたたたた、茜がイタい。」 『ぬふふ。』 「…。」 『!?』 曲がり角、曲がり角なんて思いながら歩く不二の隣りで怪しく小走りしてたら前方に曲がり角を発見。まさかの出会いを求め走って曲がった。しかしキキーッと鳴るブレーキ音。直後にドアが開いて人が飛び出してきた。何で私黒塗りの高級車に跳ねられてんだよ。 「おい!生きてるか!?」 『ジ・エンド・オブ私ー…って生きてる…!あれ?目の前にイケメンが!やっぱり曲がり角ってすごい!』 「ミカエル!いますぐ車を出せ!こいつ頭がやられたかもしれねぇ!なんか言動がおかしいぞ!」 イケメンなお兄さんに姫抱きにされ車に乗せられた。そのままお兄さんも乗り込みドアがしまった。…え?ちょ、まじで?車は勢いよく走り出し私たちが向かっていた方向とは逆向きに進む。 不二…、私誘拐されたみたい。 曲がり角の法則 |