テニス | ナノ

 幸村精市/切甘

私は夏の間ずっと病院にいた。みんなが行ったプールも、お祭りも花火も私はこの病室から見つめていることしかできなかった。そんなつまらない毎日が嫌で嫌で仕方が無い私はいつもは出ることのない病院の庭にでた。そこで出会ったのが幸村精市、一目惚れだったのかもしれない。長い睫毛に風に揺れる青い髪。お人形さんみたいに綺麗なのに目は曇っていたのが気になって声をかけた。

最初は少し嫌そうな声で話してくれていた。多分、病気の事なのだろう。そう思っていたから毎日毎日外へ出てたくさん話した。一方的だった会話も徐々にかみ合ってきて最後に話した日には彼は笑っていたと思う。

七、八日来ないなと思ったらどうやら彼は退院したと聞いた。手術を受ける、それが確率が少ないのなんて私は知らなかったのだ。結局彼にとって私はただ迷惑なだけの存在だった。


そして冬。
私の長い病院生活は明日で終わりを告げる。ここにくる事はもう、ないといい。カーディガンを纏い外に出た。夏に眩しいばかりに咲いていた向日葵はもうそこにはいない。

『寒いなぁ…』

雪がちらつく中外に出る患者は誰もいない。ベンチに座り、空を見上げる。暑い雲がかかった晴れない空。肩にかかる雪など全然気にならないほどに私は空をただ見上げていた。

ー赤。
急に視界に赤い傘が入り込んできた。誰がいるのか分からない。ズボンを履いているけど手が綺麗だし女の子かも。


「…風邪引くよ。」
『うん、でも私は待ってるの。』
「誰を?」
『すごく綺麗な人。』
「でもその人は君が雪の中で待つのは望んでないと思うよ。」

なんで、という前に赤が取り払われて抱きしめられた。強いけれど触れている指先はとても優しくて暖かくて。頬にかする髪は藍色の癖のある柔らかい毛。

「やっと退院して学校に来られるなら先延ばしにしないで。」
『幸村、精市くん…?』
「うん、迎えにきたよ南さん。それと今まで言えなかった、ありがとう。今度は俺が君にする番だ。」


((冬の花火))

(彼の手には季節外れの向日葵の花束が握られていてそれはまるで花火のようでした)



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