テニス | ナノ

 1人暮らしの幸村の家へ行く

※20歳で大学生

大学生になって幸村の友達になってからはや2年が経過し3年目を迎えようとしている。そんな私はコンビニで酒をかごに入れながらおつまみを選んでいた。それもこれも幸村の誕生日に家に呼ばれたからである。昼間は中学のころからのテニス仲間とパーティがあったようで、用事があるなら後日と言ったのだが夜酒でも持ってきなよ、といわれのこのこ指示に従ったのだ。それに暫く課題やバイトで立て込んでいて会っていなかったからという理由もある。

「1,589円になりますー。」

間延びした店員の声に財布からお札を取り出した。おつりの渡し方がへたくそなのかわざとなのか手を握られながら小銭を置いたのには顔をしかめた。そこから歩いて坂を上る。何故こんなところに住もうと思ったんだ幸村は。運動しない私には坂はきつくてチューハイの重みを感じる。着いたころには少しだけ息が切れていた。エレベーターで一安心と思ったのに点検中とは本当に運が悪い、仕方なく螺旋階段をヒールの音を響かせながら上っていった。

インターホンを押すと南?と返ってきてモニターに向かってキメ顔をすると気持ち悪いと一括。すぐに鍵を開けてくれた。

「合鍵持ってるんだから入ってこればいいのに。」
『んー、なんかちょっとね。友達に合鍵渡すのはどうかと思うよ。』
「…信用してるからね南は。上がって。」

いつもそうやって笑う。合鍵を渡されたのは確か私の誕生日だった。小さい箱を誕生日プレゼントと渡されて、もしかしたらアクセサリーかもしれない。そんな期待を込めて開けた箱にはリボンのついた何の変哲もない鍵だった。なにこれ、と当然と問う私に幸村はいつでも入れるように俺からのプレゼントと言ってのけたのだ。これには驚いて返そうとしたのだが結局幸村は受け取ってくれなくて私のキーケースに収まった。

ビニール袋から取り出した少し汗のかいた缶のプルタブを押し開ける。

『ハッピーバースデー幸村精市くん。』
「ありがとう。」

小さな乾杯をした。対角になるように座ってテレビをつける。これが私たちの宴会の仕方。去年まではよくこの部屋でお笑いなんか見ながら酒を飲んでいた。今年になってからは数えるほどしかしていなくて懐かしくなった。

「俺の好きなチューハイ覚えてたんだね。」
『まぁね、毎回それだもん。』
「確かに。お前も変わんないね、相変わらず苺とか甘いの飲んでるし。」
『おいしいからいいじゃん。一口ちょうだい、』

無理やりではないけれど缶を奪って一口流し込んだ。レモンの酸味が甘かった口内をじわじわ侵食していく。幸村は私の缶に手を伸ばして一口どころかかなり飲んでいた。

『飲みすぎ!』
「俺の誕生日なんだからいいだろ?」
『いつも私がいっぱい飲むと文句言うくせに。』
「当たり前だろ?」
『あのさ、ちょっと聞いていい?』
「なに、いきなり。」
『どうして幸村ってそんなに許容範囲広いの?』

面を食らったように幸村は私のチューハイの缶から口を離した。そして可愛らしく缶を両手で持って少し悩む表情を見せた。私はというとおつまみを片手に回答を待つ。

「別に広くなんかないと思うけど。」
『広いよ、だって普通だったら私みたいな女に合鍵なんか渡さないしこんな時間に部屋にいれないでしょ。』
「入ってきたとき言っただろ。信用してるからだって。それとも酔ってるの?」
『まだ酔ってないけどさ、そろそろ関係はっきりしたほうがいいと思うの。』
「はっきりって?好きなやつでも出来たの?」
『うん。』
「は、」
『好きな人、出来たから。』

幸村の両手から缶が滑り落ちて床にピンクいろがこぼれた。慌ててキッチンに行って雑巾を濡らして倒れたままの缶も立てる。本人は放心状態で上の空。四つんばいになって足元も拭いた。そのとき私の手と幸村の手が重なった。そう思ったときには半乾きの床に倒されていて顔の両側には程よく筋肉のついた腕がふさいでいた。

「誰、俺の知ってるやつ?」
『うん。』
「あのさ、こんな事いうのもなんだけど絶対お前は俺の事好きだと思ってたよ。結構分かりやすくやってたしお前嫌がらなかったし。鍵渡した時点で暗黙の了解だと思ってたんだけどなぁ。」
『あの、精市さん…?』
「お前を好きだからお前に対して許容範囲が広いのなんて当たり前だろ。」

酒のせいか言葉のせいか赤くなった幸村の顔がすっと近くなった。鼻と鼻がくっつくぐらいの距離がどんどん近づいて唇が重なって目を閉じた。こじ開けられた口から苺の味が広がって引き込まれていく。何度か幸村は私にキスをしたことがあった。それは目の下とか瞼とか頬とかで唇同士がくっつく、ましてや深いものは初めてだ。思い返せば幸村の思わせぶりの態度はかなりあった。でも私のうぬぼれだと封じ込めていた。名残惜しく離れた唇をじっと見つめる。

「…ごめん。」
『や、めないでよ。なんで泣くの。』
「お前泣いてるし。」
『嘘、』
「ほんと。やめないでって言うのはホント?嘘?」
『ほんと、だよ。』
「はは、息あがってんじゃん、ついてこれるの?」
『愚問だなぁ、着いてこさせる癖に。』

そのままベッドまで運ばれて二人の体が沈んだ。

『好きな人、幸村だからね。』
「そうじゃなかったらとんだ尻軽女だ。」

私たちはこうして甘い夜を迎える。



prev|next

back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -